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            日常の風景   NO.0193
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いつか千の風になる

「千の風になって」という歌がロングセラーを続けている。
テノール歌手の秋川雅史が本格的に歌っている、クラッシックな歌曲が
これほどヒットするのは信じられない気がするのだが、
実はわたしも大好きな歌なのである。

わたしがこの歌を好きになった最大の理由は、歌詞が持つ、こころに直接響く力である。
Do not stand at my grave and weep. I am not there.
I am a thousand winds that blow.
から始まる作者不詳のアメリカの原詩を、新井満がすばらしい日本語訳に仕立て上げ、曲もつけた。

むずかしい英語では決してない。誰にでも訳すことはできる。
でも、才能がないとすぐれた詩には決してならない。

私のお墓の前で泣かないでください。
そこに私はいません眠ってなんかいません。
千の風に千の風になって、あの大きな空を、吹き渡っています。

才能といえば、新井満のマルチ的な才能にはおどろかされる。
わたしが新井満をはじめて知ったのは「尋ね人の時間」で第99回芥川賞を受賞したときからである。
その都会的なセンスの文体が気に入って、一時夢中になって読んだ。

読んでいるうちに気がついたのだが、新井満が持つ顔は小説家だけのものではなかった。
彼は歌手でもあった「ワインカラーのときめき」(作詞:阿久悠 作曲:森田公一)が昔ヒット曲になった。
「千の風になって」は、彼自身が直接歌うCDも発売されている。
その上、すぐれた写真家でもあり、詩人であり、作曲家でもある。

私のお墓の前で泣かないでください。
そこに私はいません死んでなんかいません。
千の風に千の風になって、あの大きな空を吹き渡っています。

いろんな要素はあるのだろうが、この歌詞が持つ力強さに、間違いなくわたしは惹かれたのだ。

昨年末に、昔からの文学仲間が集う掲示板で、立て続けに、お墓を買いましたとか、
昔、父母と住んでいた田舎に、お墓を建てる予定ですとかの書き込みがあり、
「墓についてどのように考えていますか?」との問いかけがあった。

この掲示板に集う仲間の平均年齢にふさわしいような話題で、
しばし、意見の交換があった。わたしも参加しようと考えているうちに次の話題に移行して、
書く機会を逸したので、今ごろになってこの文章を書いているのだが、
わたしは自分の墓はつくらないと、もうずっと前から決めていた。

幸いなことに、わたしには守るべき「先祖代々の墓」というのがない。
兄弟姉妹もいないから、墓のことは自分で決めることができるのである。

わたしの両親は一時期だけクリスチャンだった。
だから、教会の納骨堂に母親の遺骨は眠っている。
父親が亡くなったときは、教会そのものが機能していなくて、
近所にあった真言密教のお寺に葬儀だけを頼みにいった。
父親の遺骨は、大阪天王寺の一心寺にあずけた。
一心寺は10年間集めた遺骨で、ひとつの大きな骨仏をつくり、安置して法要をとり行っている。

わたしは2年前に会社を退職したとき、相棒と子供達一人ひとりに今までの感謝を込めて手紙を書いた。
その手紙で、墓は必要ないということもはっきりと書いておいた。
その代わり、海外旅行が好きだったわたしの思い出の場所に散骨して欲しいということを、具体的に書いた。
たとえば、このような文章だった。

パリのセーヌ川での散骨をお願いします。
セーヌ川にはバトー・ムッシュという観光船が昼も夜も就航していますが、
できれば夕暮れか夜、バトー・ムッシュに輝くような照明が点されてから、船の上からセーヌ川に撒いてください。

退職金をもらったばかりだったので、旅費もいっしょに添えておいた。
みんなサラリーマンなので、親の遺言ということであれば休暇も取りやすいだろうという、親心もある。
3人ともそれぞれ世界の違う場所を指定しておいたが、実行されなくてもそれはそれでかまわない。



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sceneryの風景

家族にあてた2年前の手紙には、延命治療は不要。ガン告知はして欲しいなど、
大切に思えることはすべて書いておいたつもりである。

手紙の内容を今読み返してみると、このようなことも書いてあった。

神の存在は信じているのですが、わたしの神は宇宙の意志、宇宙の法則とでも表現すべきもので、
現在のキリスト教でも仏教でもありません。
従ってお葬式は、キリスト教でも仏教でもかまいません。
決して派手にする必要はありません。残った家族の立場が世間的に顔向けさえできればそれでよろしい。

死者を弔うということは、基本的には、死者のためというよりは、後に残った家族の慰めのためである。
家族が楽しめる慰霊にして欲しいとこころから感じているので、以下のことも書いておいた。

年忌などは一切必要ありません。
年忌の代わりに、家族みんなで旅行するということを年忌の習慣にして欲しいと思います。
年忌になれば、みんなでどこかの温泉にでもゆっくりと浸かり、
夕食においしいものでもつつきながら、たまにわたしのことを思い出してくれればうれしいです。
この年忌旅行の費用はお母さんが喜んで出してくれるでしょう。

以上、具体的なsceneryの考えを書いてきたが、この考えをみんなに理解してもらおうというような、
傲岸な考えは微塵もありません。
みんなそれぞれ立場も環境も違うのです。
2つも3つもの墓を守っておられる方もおられるでしょうし、
慣習に従うという方もおられるでしょう。
それはそれで立派な考え方だと思っています。



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