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            日常の風景   NO.0186
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レーニン廟

モスクワでもっとも有名な「赤の広場」は、城壁に囲まれたクレムリンの北東に接している。
長方形の巨大な広場は幅130m、長さは700mもある。

赤の広場のなかほどにある、レーニン廟をぜひ訪れてみたかった。
廟のなかには、1924年に死去したレーニンの遺体が化学処置をされて、
レーニンその人が完全な形で安置されている。

わたしは、レーニンのことはあまりよく知らないし、興味もない。
ただ、NHKの番組で見たことがある、保存されているレーニンの遺体の印象が、
かなり強烈に記憶に残っていたので、ぜひ確認してみたかったのである。
現代のミイラをぜひ見てみたいという、ただの野次馬根性だけの世界である。

レーニン廟のなかが見学できるのは10時〜13時までと3時間しかない。
そのうえ、月曜日と金曜日が休みなので、ツアーでの旅行なら見学するのは、
かなり難しいことなのかもしれない。

わたし達は9時過ぎに赤の広場を訪れることにした。
地下鉄の駅を降りて、広場のまわりをゆっくりと見学していたら、
クレムリンと広場との境界線あたりに長蛇の列ができている。
ひょっとしたらと思って、最後尾の人に尋ねてみたら、やはりレーニン廟に
入るために並んでいるのだという。

10時にはまだ30分以上あるのに、約200人ぐらいの列ができている。
簡単な鉄の柵とくさりとで廟と広場とが区切られている。
入り口にはヒサシが短くて、赤い帯の入った警察官用の制帽を
いかめしくかぶったふたりの警察官がまわりを睥睨していた。

10時になったのに、まだ列には動く気配がまったくない。
観光客を延々と待たせたまま、修学旅行生の団体とか、
多分、優良国民として表彰されたような人の団体が、着慣れない背広やワンピースに身を包み、
胸を張って堂々と横から入ってゆく。

やっと観光客に順番が回ってきたが、一斉に通すわけではない。
20人〜30人ほどに区切って、少しずつなかに入ることを許される。
遅々として進まない。
そのようななかでも、ロシアの特権階級とおぼしき人は、警察官に身分証明書を見せたり、
なんらかの交渉をして、待たされることなく入場してゆく。

さすがに列にいる観光客のなかから、不満の声が小さく上がった。
わたしも「おっさん、ずっこいやないの」と日本語で、
警察官の耳に届かないぐらいの大きさで罵声をあびせた。否、つぶやいた。

やっとわたし達の順番が回ってきた。1時間以上はしっかりと待たされたことになる。
入り口の手前で、厳重な手荷物検査と、ボディチェックを受ける。
レーニン廟のなかはカメラ撮影は禁止である。
そして立ち止まることさえも許されていない。私語はもちろん禁止である。

廟のなかは暗い。入り口や曲がり角には、杖のようにして小銃を持った兵士が、
直立不動の姿勢を保ちながら、等身大の人形のように立ち尽くしている。
3回か4回、角を曲がると、青白い顔をしたレーニンが空中に浮かぶようにして横たわっていた。
地下の暗い部屋で、強烈なスポットライトがレーニンの遺体を照射していた。

わたし達はレーニンの遺体のまわりを右側から、そして足元から、左側からと
コの字を描くようにしてゆっくりと歩む。

ガイドブックによれば、1953年に亡くなったスターリンの遺体も、
1961年までこのレーニン廟に保存されていたとあった。
歴史的評価の激変したスターリンの方は現在クレムリンの壁に埋葬されている。

党内反対派や「反革命分子」に対し、粛清と称して2000万人もの人々を虐殺し、
過酷な抑圧政策をとったことで知られるスターリン。
スターリンの方が確実に冷酷非道な政治家であったのは確かなのに、
わたしにはレーニンの方がスターリンより重い罪を背負って、
まだそれをあがなわされ続けているているような気がしてならなかった。



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sceneryの風景

レーニンの遺体に興味がある人は
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/moscow/lenin.html

まだまだ書きたいことはあるのですがロシアの旅行記のようなものは、今回で最終号です。
ロシアの写真をまだ見ておられない方は、
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/moscow/moscow.html

ロシアには一度は行きたいとあこがれていたし、その価値は充分にあった。
特に建築や芸術の分野。
エルミタージュ美術館をはじめとして、トレチャコフ美術館、プーシキン美術館など、
どれもすばらしかった。

サンクトペテルブルグの、マリインスキー劇場で見たモダンバレエなども印象的だった。
普段ならチケットの入手は困難と聞いていたのに、
直接窓口に行って、雰囲気だけでいいからと、当日の格安チケットが入手できたのはラッキーだった。

だが、ロシアへの旅行は今回が最後になるような気がする。
それは、旅行者というお金を使ってくれるカスタマーへのサービスという概念が
まだまだ育っていないと感じられたからである。

ロシアの観光局は、ロシアへ来たいのだったら別に来てもいいよ。
見たいのだったら、見せてやってもいいよというスタンスなのである。

クレムリンのなかの武器庫にはロマノフ王朝時代の宝物が、それこそ山のように展示してある。
だが武器庫の宝物も一日中展示されているわけではない。
一日三回と時間が決められており、そのチケットを入手するのでさえ、長い行列ができる。

チケット売り場の窓口が開いていて、係員がいて、長い行列ができているのに、
13時からと決められていたら、13時まで待たなければならないのだ。
でも、このケースなどはまだ時間通りだから、係員の方に理屈は通っている。

問題は美術館などの閉館時間である。
19時閉館と決められていても、18時30分ごろからお客を追い出しにかかる。
19時の閉館というのは、19時になったら、従業員もお客と一緒に美術館の門を出る時間なのである。

ファーストフード店でさえ、閉店30分前になったら、商品が目の前にあるのに
「ニエット」とニベもなく断られる。

しかしこのシステム、慣れてくると、お客であるわたし達のほうが
ロシアの習慣に合わせてそのように行動するようになるから不思議である。
むしろ、毎日定時に職場の門を出るというロシアの労働者の方が
ほんとうの姿かもしれないと思えてくる。

ロシアのサービスの悪さに憤慨していて、こんなことを書くのは気が引けるのだが、
ロシアはいまのままのロシアであってほしいと思う。
間違っても24時間オープンしているコンビニやスーパーマーケットなどが巾を利かさないように祈っている。

スリに遭って難儀はしましたが、ほとんどのロシア人は親切でした。
地下鉄の改札口のバーに、わたしの体は出たのに、手にしていた旅行かばんが挟まってしまったとき、
わざわざ自分が持っているコインを入れて、取り出してくれた見知らぬロシア人。

トイレの場所がわからないので聞いたら、
黙って方向を指差しながら、1階から4階にあるその場所まで、一緒に階段を登ってくれた
ビルの掃除をしていた女の子。どうもありがとうございました。



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