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            日常の風景   NO.0200
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直島の時計

コーヒーを飲んでいるテラスの前には大きな水槽がある。
水槽の向こうはよく手入れされた丘陵に芝生が植えられていた。
その向こうには静かな瀬戸内海が見える。

水槽の中には、水から生え出たようなモダンアートの作品があった。
6つのオブジェクトが横一列に等間隔で並んでいる。
巨大な時計の針が天に向かって突き出でいるような作品である。

最初のオブジェクトが1枚の針を持ち、
順番に1枚ずつ増えていって、最後は6枚の針になる。
直島はモダンアートの島なのだ。
島全体が美術館というコンセプトで作られた観光地なのである。

多くのモダンアート作品がそうであるように、自然に溶け込んでいるアートではない。
むしろ自然からは遠くかけ離れた、異空間である。
だからこそ、強烈な存在感とギャラリーそれぞれへのメッセージがある。

どのような仕掛けになっているのか、ごくわずかな風に反応して、
時計の針がゆらゆらと揺れるのである。
2枚の針を持つオブジェクトに注目していると、
1時10分に揺れたかと思うと、次の瞬間には10時55分になっている。

スペインの画家、サルバドール・ダリは頻繁に溶けた時計を描いていたが、
直島のこの作品は、溶ける時間というよりも、
風に任せて変化する、揺らぎの時間であり、そよぐ時計に見えた。

直島に来てから、わたしの時間もずいぶんと揺らいだ。
のんびり、ゆったり、まったりと時間が経過してゆく。
娘は直島が好きで、今回で4度目の宿泊だという。
わたしと相棒は、今回が最初の訪問だった。

娘に誘われなかったら、温泉もない、大浴場もない、特色のある料理もない直島。
まずは触手が動かない場所だった。
娘が気に入った理由は、のんびりとできる。ただそれだけである。

直島に来てから、娘がのんびりできるとさかんにいっていた意味が
わたしにも理解できるようになった。
島にはモダンアートの作品以外に見る物が何もないのである。
ごく自然にアート作品を求めて島を散策することになる。

島に看板はないし、みやげ売り場もない、観光客の姿もまばらである。
団体客が泊まれるような大きな宿泊施設もないから喧噪もない。
ちいさな美術館がホテルであり、ホテルの部屋にはテレビさえない。

明媚な瀬戸内海を眺めながら海岸沿いを散歩すると、
砂利を踏む靴音の合間に、風の葉音、ポンポン船が奏でる小気味のいい音。
波の音や、かすかな潮騒の音に混じって、遠くで鶯が鳴いている。
普段は聞くことのできない音達が、時間をのんびりとそよがせるのである。

時計の針の向こうに見える瀬戸内海を行き交う大小さまざまな船を眼で追う。
景色を楽しむには邪魔のはずのアート作品がもう気にはならない。
それぞれの船はあわただしく行き交っているのだが、
海の広さと静けさで、余裕のある光景に映る。

かすかに見える四国の高松は、小島と小島に架かる架け橋のようで、
海に浮かぶ小さな蜃気楼のようだった。

強い風が吹いたのだろうか、21本の時計針が、一斉に傾き、
さざ波のように揺れていた。



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sceneryの風景

いつの間にか今回の号で200号になりました。
わたしの作品に付き合っていただいて、本当に感謝しています。

実は記念号に合わせて「日常の風景」を本にして出版するつもりでした。
ですが、ちょっとした手違いにより、1か月ほど先に延びたのです。
人生には予定通りにゆかないことは、在りがちですし、
むしろ、うまくゆかないことの方が普通なのかもしれません。

具体的な本の形になれば、またお知らせします。

その代りという訳でもないのですが、娘に誘われるままに、
青春18切符を利用して、直島に行ってきました。
直島へは岡山駅から宇野線に乗り換えて、宇野駅までゆき、
宇野からフェリーで20分のところにある瀬戸内海の小さな島です。

島全体が美術館というコンセプトで、ユニークな島です。
島では、外国人の姿がやたら目につきました。
わたしたちのホテルの部屋のお隣さんもデンマークから来ていた夫婦で、
しばらく話していました。

直島は日本よりも海外で有名な島だそうで、
ガイドブックでは京都、奈良ぐらいに有名な取り扱いだそうです。

確かに、いい島でした。
特に、毎日の仕事に追われている、現役世代にお勧めの島です。

直島の写真です(風景に書いたモニュメントもあります)
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/naoshima/naoshima.html

ダリの溶けた時計の絵を見たい方は
http://dali.uffs.net/galerie/pictures/1931_the_persistence_of_memory_02.jpg



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