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            日常の風景   NO.0184
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ロシアのスリ

サンクトペテルブルグはちょうど通勤の時間帯だった。
満員電車の地下鉄から、やっと開放されて地上に出てくると陽の光がまぶしかった。

一段落して、ほっとした気分で、ふと下を見ると、
いつも腰のバンドにぶら下げている、デジカメホルダーのチャックが開いている。
あれっと思って、上から押さえてみると、グシャッとホルダーがつぶれた。
愛用していたデジカメがなくなっている。

あわてて、かばんのなかやポケットを探してみるが、どこにも見当たらない。
同行している、相棒や、娘には、いつものようにうっかりどこかで忘れたのだろうと、
ほぼ軽蔑のまなざしで睨まれた。

そのとき、娘が、
「あれっ、誰がお父さんの財布をこんなとこに入れたん」
と、素っ頓狂な声をあげて、わたしの小銭入れを自分のポケットから取り出した。

中身を確認してみると、カラッポである。
満員電車のなかで、見事にスリにしてやられたのである。
わたしからいったん掏った財布を、中身を抜き取り、再び娘のポケットに返しておくなんて、
余裕シャクシャクで、遊ばれている。

ここまであざやかな手口を見せられると、
3人が顔を見合わせて、ケラケラと笑い出してしまった。

財布の金額はたいした額ではなかった。
230ルーブル。日本円にして、千円と少しである。
カメラは、かなりの痛手だったが、幸いにして、メディアを交換した直後だった。
20枚から30枚のロスだけで済んだ。
カメラ自体はもう5年近くも使用しているものなので、それほどの価値はもうない。
オークションにかけても、5千円も期待はできそうもない旧式である。

ホテルに帰って、再度身の回りの総点検をして気がついたのだが、
クレジットカードもそのときに一緒に掏られていた。
実は、これの後処理がいちばん大変な作業だった。
言葉のよくわからないロシアからの国際電話は日本にアクセスするのに、
かなりの手間がかかってしまった。

カード会社に盗難の連絡をしてわかったのであるが、
驚いたことに、掏られて30分後にはもう高額の買い物をされていた。
何を買ったのかはよくわからなかったが、7万円あまりの金額が引き出されていた。

スリの立場からすれば、この日のいちばんの収穫がクレジットカードだったことになる。
しかし、クレジット会社には盗難の保険システムがあるそうなので、
すぐに届け出た場合、わたしへの直接の実害は回避できそうである。

すべての後処理が終わると、安堵の気持からか、みんな急に空腹を覚えた。
夜の10時を過ぎていたし、ホテルの近くで適当なレストランを見つけることができなかった。
マクドナルドで簡単に遅い夕食を済ませた。

ホテルに再び戻ってきたとき、ロビーでは、簡易パブが店開きしていて、
生ビールをくみ出す、シュワッといういい音が聞こえてきた。
こうなるとたまらない。相棒と娘を先に部屋に帰し、わたしひとりがロビーに残る。

4人掛けの丸テーブルにひとりで腰を下ろし、ビールの大ジョッキーをゆっくりと傾ける。
散々な一日だったが、なんとか無事に切り抜けることができた。
旅にでれば、多少のトラブルはある方が普通と普段から思っているので、
トラブルに一区切りがついたときの、きりっと冷えたビールの味はまた格別である。



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sceneryの風景

今までに30回以上の海外旅行の経験のなかで、スリの被害ははじめてのことである。
未遂事件は2回ほどの経験があった。
だから油断さえしていなければ、スリの被害は防げると思っていたのは確かである。

だが、今回のような鮮やかな手口で掏られると、スリのグループに目を付けられると、
どれだけ気をつけていても、してやられる可能性はかなりあると考えた方がいい。

完璧に防御するのは、ほぼ不可能と考えた場合。
身を守るのは、リスクを分散させる以外にないと思う。
現金やカードはあちこちのポケットに少しずつ入れておく。
どちらかといえば、財布に入れるよりも、むき出しのまま紙幣を直接ポケットに入れておく。

ズボンの後ろポケットに入れるのはもっとも危険である。
腰に付けるポシェトもその次ぐらいに危険だと思う。
カバンに入れて、手で抱え込んでいれば、ほぼ安全。

とにかく、人が込み合うところは、掏られるリスクがあると考えた方がいい。
スリは4人ほどがグループで行動しているので、
ある程度の人ごみがあれば、数秒の間だけ、人の流れを混乱させて、
超過密の状況をつくるのには、ほんとうに慣れているのである。

実は、そのあくる日にも、エルミタージュ美術館近くの地下鉄の同じ駅で、
スリ団に遭遇したのである。

昨日の今日であるから、さすがに満員電車は避けたし、油断もなかった。
でも、4人組は見事なチームプレーで、一瞬混乱を作り出し、
わたしのシャンバーのポケットにも手を入れてきた。

地下鉄車両のなかで、なんとなく、前をさえぎり、後ろから押してくるので、
かばんをしっかりとかかえながら、
「ええい、クソッ」と軽く突き飛ばすと、その4人組はとりつくろうこともなく、
電車が発車する寸前になって、どうどうと車両から降りていった。

旅行者の立場なので、スリとわかっているのに
黙って見送る以外に、どうしようもないのはくやしかった。
せめて、スリ団にとってそれほど価値のないカメラは返してと言いたかったのだが・・・

しかし、ロシアだけにスリが多いわけではありません。
どこの都市にも必ずスリは存在します。
他のヨーロッパ諸国と同じぐらいのリスクだと考えてください。
アメリカのロスやニューヨークよりは安全かもしれません。

英語があまり通じない言葉のハンディはありますが、
ほとんどのロシア人は親切で、気持のいい人々です。
モスクワもサンクトベルグでも、ホームレスの姿はほぼ皆無でした。

できるだけ油断なくトラブルを避けるように努力するのは当然ですが、
それだけにとらわれていては、萎縮してしまって、旅を楽しむこと自体ができなくなってしまいます。
トラブルも旅の思い出と割り切れるような、前向きの姿勢が大切なのではないでしょうか。



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