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            日常の風景   NO.0187
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人類の失敗

上級、中級、初級と三つ用意されているテーブルの中心には、
オーストラリアやイングランドから来た男女のインストラクターがいた。
各席には7〜8人ずつの生徒もいる。
流暢な英語やら片言の英語やらが交じり合いにぎやかだった。

わたしは一応上級の席にいるが、年が上級というだけで、とてもそんな実力はない。
この席には、海外に長期間住んでいたことがある人とか、高校で英語を教えている教師とか、
すくなくとも一度は留学の経験がある若者とかが多く、
しばしば話題についてゆけなくて圧倒されることもある。

でも、そこは年の功というか、英語とはコミュニケーションの道具に過ぎず、
しどろもどろであっても、なんとか伝えたい内容が相手に伝われば、それでよい。
要は、伝える内容の問題だなんて、ひらきなおって平然としていられる、
面の皮の厚さは、間違いなく上級になっていると思う。

流暢にリズリカルに話せるようになるとか、
ネイティブのようにうつくしく発音するとかの目標は、遠の昔にあきらめて、
恥をかく回数が、英会話上達の極意であるとうそぶいたりもしている。

わたしたちの席のインストラクター、クリスは生やしている髭までが金髪だった。
口のまわりに密生している、よく手入れされた髭が似合っている。
話題が途切れたとき、次の話題をリードするのはインストラクターの大切な役目である。
クリスの髭が動いた。
「人類の発明のなかで、いちばんの失敗作は何だと思いますか?」

突飛もない質問にみえるが、実はこのような極端な話題のほうが会話は盛り上がる。
すぐに「原子爆弾」とか「遺伝子操作」とかが候補にあがったが、後がなかなか続かない。

わたしは、現在の温暖化の状況などを考えて、ひょっとすれば、
産業革命を引き起こした蒸気機関かなと思ったりしたが、
話題に持ち出すには、説明があまりにも複雑になりそうなので黙っていた。

しばらくして、みんなは答えを促すようにクリスの顔を見た。
クリスは「イッツ アグリカルチャー」とボソッとひとこといった。
アグリカルチャーとは農業のことである。

微妙な沈黙が席を支配した。
意外な答えに驚いた沈黙ではない。みんなその場で妙に納得してしまったのだ。
わたしは沈黙を破って
「ユー キャン セイ ザット アゲイン(まったくその通りです)」と
思いつくままに、賛成の理由を話し始めた。

人類の長い歴史のなかで、旧石器時代が99パーセントであり、
残りのわずか1パーセントに新石器時代から現在までが存在している。

確かに農業という発明は、人類にとって最大の失敗だったのかもしれない。
農業というものがなかった現代の地球という状況を想像をするだけで、
わたしはなんとなくわくわくとしてしまう。

もちろん農業がなければ、人類の生活は苛烈で苦しいものだったと思う。
しかし、よく考えてみれば、人類が現在抱えているすべての問題が一挙に解決しているのだ。
農業が発明されていなければ、大規模な村も必要ない、国もない、国境もない、権力もない。
そしてアメリカが第一の価値として掲げる「自由」は生物のすべてに平等に与えらたはずである。

農業のない現代を仮定したなら、地球上の全人口はせいぜい5000万人ぐらいが関の山だろう。
平均寿命も50歳には届いていないのかもしれない。
それでも、わたしは農業のない地球を絶対に選択する。
あーでもない、こーでもないとしばらくは夢のような仮定の話題で盛り上がった一日でした。



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sceneryの風景

わたしが土曜日に通っている、大阪本町のウッディ-ハットはNOVAなどのシステムとは
ぜんぜん違います。好きなときに通って、何時間話しても、飲み物代込みで2500円ほどです。
自己紹介ぐらいができれば、最初はカタコトで充分です。英会話に興味のある方にはお勧めです。
http://homepage2.nifty.com/woody-hut/

わたしひとりが、考えたり悩んだりしても詮無いことですが、
逆説的な農業失敗説を力説しなければならないほど、地球の未来には悲観的な予測しかできません。
現在地球の人口は65億人、21世紀の終わりには100億人です。
現在でもこの65億人の食料を確保するために、自然を壊し、農地を拡大し、温暖化を促進しながらも、
経済は拡大しなければなりません。

地球温暖化は確かに大問題です。しかし、誰一人として(わたしはもちろんです)
経済活動が不活発になる不景気は願い下げなのです。
どこの国でも民主主義は、不景気では選挙に勝てないしくみです。

人間のDNDも究極のところ「自分さえよければそれでいい」というプログラムに縛られています。
未来の子孫たちのために、現在の生活をがまんするという高級なプログラムではないのです。
だから、人口が100億に達するまでには、どこかで一度、
クラッシュというか、リセットというかとてつもない悲劇になるような予感がします。

リセットはできればわたしの孫の時代までは、なんとかもって欲しいというのが、
「自分さえよければそれでいい」というプログラムに縛られているわたしの本音です。

まあ、未来にリセットされてもそんなときに一部は動物に戻ってしぶとく生き抜いてゆくでしょう。
人間は考えている以上に、潜在的にはたくましいでしょうから。



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