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            日常の風景   NO.0219
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青空とこぶし

気の重い訪問である。
苦労して書き上げたLANシステムの提案書、見積書も、
結局は他のメーカとの当て馬に利用されたのだと、
昨日あるルートからわかった。

でも、今日の訪問は前からのお客さんとの約束だから、
表面上はにこやかに説明しようと、
笑顔の練習をしながら車を走らせる。

そんなわたしの車が愛知川の橋を渡ろうとしたときである。
橋の下で、10人ぐらいの老人たちが、
ゲートボールに興じているのが目にとまった。

プレイヤーと数人は立っているが、あとの男女の老人は、
それぞれベンチに座ってボールの行方を目で追いながら雑談に興じている。

大きな川で、急に視界がひろがった向こうには、真っ青な空。
道路と平行に走っている鉄橋。
太陽のひかりにきらきらと反射しながら流れる川の水。

慎重にねらいを定めていたプレイヤーが、クラブをボールに当てるのと、
鉄橋をクリーム色の電車が通過するのが同時だった。

わたしはボールがゴールを通過するのをはっきりと見た。
ベンチの老人が立ちあがる。
握りこぶしを青空に突き上げている。

電車が通過する音しか聞こえなかったが、
老人たちの若々しい華やいだ喚声が、わたしのなかではっきりと聞こえた。

あの人たちはいま青春をしているんだ。
きっと恋をしているカップルもいるのだろうなと、
微笑ましいような確信がアプリオリに芽生えた。

こわばった空気のなかで練習していた笑顔が、
いつの間にか、本物になっていた。



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sceneryの風景

いよいよ今年も押し詰まってきましたね。
連日連夜、暗い、どうしようもない閉塞感に包まれた、
不景気なニュースばかりを目にしていますと、
いかに楽天的で能天気なわたしでも、気分は沈んできます。

こんなときこそ、なんとか明るい風景を書かかなければと、
勢い込んでパソコンに向かいましたが、
出てくるのはため息ばかりで、前向きな風景はなにも浮かんできません。

何かヒントがないかと「日常の風景」創作用の
パソコンのフォルダーを探していますと、
上記のような作品が眠っていました。

わたしがまだ現役で懸命に仕事をしていたときの作品で、
ほぼ完成していたのに、なぜ発表しなかったのか、よくわかりません。

多分当時は書くことが次々にいっぱいあったので、
発表しようと準備しているうちに、また次に書くおもしろいことが見つかって、
結局そのまま忘れてしまったのだろうと思います。

でも、でも自分の作品を読み返してみて、もう5年以上にもなる当時の状況が
まざまざと脳裏に甦ってきました。

当時もいろいろ問題はあったはずなのですが、
社会は経済は今よりはずっと希望が持てる状況でした。

景気は「気」なのです。
みんなの気持なのです、気分なのです。

日本のマスコミの報道姿勢に非常な抵抗を感じます。
悲惨な現実を伝えることも確かに使命でしょう。
しかしそれと同じだけの明るい希望の持てるほのぼのとしたニュースも
こんなときだからこそ流すべきではないでしょうか?

倒産を伝えるその次のニュースが、
だれそれの家に、かわいい小猫が生れ、家族みんなが喜んでいますという、
全国ニュースがあってもいいのではないでしょうか。

今年の配信はこれで最後です。
みなさん、いいお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします。



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