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            日常の風景   NO.0201
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デカダンスな花見

桜を見るには最後の日曜日というので、
彦根城のすそ野は、花見客でごった返していた。

蒼いお堀をはさんで、両側に石垣がある。
それぞれの石垣の上には、桜並木が続いている。
花の咲く春の彦根城はやはり格別の風情である。

花見ストリートの中央、一番枝ぶりのいい桜の下に、
わたしたちの宴会場があった。

10畳以上の広さにはなるだろう。
大きな青いビニールシートの上にダンボールを座布団代わりに敷き、
馴染みの店のいつものお客が15人ぐらいは集まっている。

にぎやかな宴会がはじまると、うつくしく盛りつけされた折箱の上に、
桜の花びらが、ひとひら、ふたひらと舞い落ちてくる。
よく冷えた缶ビールに口をつけながら上を見上げると、
風もないのに、正確な時を計るようにして、はなびらが枝を離れる。

芝居の演出家がどこかでサインでも送っているかのような
絶妙のタイミングで花びらが降り落ちてくる。

デカダンスで贅沢な花見だなとふと思った。

若いときは、虚無的とか退廃的と訳されるデカダンスというフランス語は嫌いだった。
道徳的に腐敗したような不健康な精神状態。
生命力の感じられない、気だるさなども理解の範囲を超えていた。

だが最近は爛熟した、デカダンスの気分がよくわかるのである。
桜の花も、満開の盛りよりは、時間を置いてすこしずつ散ってゆくデカダンスな時期が、
一番うつくしいと感じるようになった。

花吹雪は、物理的な視覚としては派手できれいなシーンなのだが、
命の尽きた痕跡が点々とまき散らされるようで、
風情としてはあまり好きではない。

ひょっとすれば、60代というのは、その人生自体がデカダンスとも言える。
子孫を残し、育てるという動物としての存在理由は終わっているわけだし、
ひと昔前の時代なら、ほとんどがもう存在すらできなかったはずである。
だからこそデカダンスに共鳴を覚えるのである。

3本目の缶ビールのプルリングを引っ張ったころ、宴会は最高潮に達していた。
茶の間のような宴会場の横を、花見客がそぞろ歩いてゆく。
花見客にすれば、わたしたちこそが、花見に欠かせない景色なのだろう。

どこの国の外国人なのだろうか、花見の宴会の様子をやたらカメラに収めている。
外国人にしてみれば、めずらしい日本独自の風習に違いない。
してみると今日の宴会、日本文化の保全に多大の貢献をしているともいえる。



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sceneryの風景

亀山郁夫の新訳が発表されてから、
ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」がベストセラーになっているという。
若い世代がこのような名作に触れてくれるということは嬉しいことである。

実はわたしはまだ読んだことはない。
若いころは「罪と罰」とかトルストイの「戦争と平和」なども、
読んだことはあるが、内容はほとんど覚えていない。

「カラマーゾフの兄弟」が売れてからは、翻訳者の亀山郁夫も
しばしばテレビにも登場するようになった。
教育テレビの「知るを楽しむ」で、ロシア文学の奥深さなども、
シリーズでじっくりときかせてもらった。

最近では、爆笑問題の「ニッポンの教義」で
「カラマーゾフの兄弟」からこんな言葉が引用されていた。
「神と悪魔が闘っている。その戦場こそは人間の心なのだ」
それにしても、真理の核心をついた見事な表現ですね。



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