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            日常の風景   NO.0206
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電車のなかで

いつものように土曜日に大阪でかけ、いつもの店で、
季節の旬の料理をいただき、
いや、これはすこし訂正。安くておいしい、いつもの料理を食べた。
キリリと冷やされたビールも大瓶で2本飲んだ。
大阪行きの楽しみのひとつである。

帰りの電車は、ほとんどが20時30分発の新快速。
現役のサラリーマンが出張するように、
自由な時間でありながら、スケジュールが大体決まっているのが、
じぶんでもおかしい。

新快速電車はいつも混んでいるが、ラッキーなことに座ることができた。
わたしは窓側で、わたしたちの席の通路には、4人づれの家族が立った。
若い夫婦と子供で、どこかのイベントに行ってきた帰り道のように見える。

小学1年生ぐらいの少年と幼稚園児ぐらいの少女の手には、
風船釣りの風船が、ふたつづつぶら下げられていた。

新大阪駅で、わたしの隣の席がひとつ空いた。
夫婦はその席に、ふたりを座らせた。

わたしはその間、ずっと本を読んでいた。
「コボちゃん」という植木まさしが書いたマンガの英訳本である。
土曜日の大阪行きは、英語に触れる、英語を忘れない、という目的もあるので、
カバンのなかに入れていつも持ち歩いているのである。

わたしにぴったりと密着する形で、隣に座った女の子。
わたしが読んでいるのが、マンガなのでひどく興味をもったようで、
身を乗り出すようにして、マンガを覗き込む。
「いくつ?」ときいたら「5歳」と答えた。

カバンのなかにあった、ケース入りのラムネ菓子を差し出すと、
「これ何」といった。
「ラムネ。食べてみる?」
「うん」
わたしは親の反応をちらっと見た。やりとりを笑いながら見ている。
「甘くてすっぱい、おいしいね」
「もうひとつ食べてみる?」
「うん、ありがとう」
素直な女の子である。

ラムネを食べ終わると、女の子の関心は再び「コボちゃん」に向かった。
本にはオリジナルの日本語も書いてあるので、
女の子はそれを一字一字ゆっくりと読みだした。

「み・ん・な・は・や・く」
女の子は、そこでわたしの顔を見る。
「それはね「外」と読むんだよ」とわたしが答える。
「外・に・で・て」女の子が続ける。

こうして、電車のなかでわたしと女の子との個人授業が始まった。
5歳にしては実に忍耐力のある、聡明な女の子だった。
子供ながらに、早熟なある種の才能の片鱗のようなものを感じさせられた。

山科で家族は降りて行ったが、プラットホームに降り立ってからも、
家族はなんども振り返り、互いに手を振って、別れた。
さわやかな出会いと、せつない師弟の別れだった。



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sceneryの風景

最近かなを教える機会が多い。
まず、隣に住んでいる4歳の孫。今年から幼稚園である。
孫が興味を持ちそうな、アンパンマンのあいうえおカードを買ってきて教えている。
褒められるのが嬉しいのと、後でもらえるご褒美のドロップを目当てに頑張っている。

もうひとつは、ここ2ヶ月ほど、彦根に来ている外国人に
日本語を教えるボランティアをしている。
全く日本語がわからない初心者から、かなりのレベルまで話せる中級者まで、
いろんな国の外国人が、この教室に参加しているのだが、
わたしはなんとなく、まったくの初級者担当になってしまった。

だから、ひらがなカタカナをカルタ取りのようにして教えている。

ひらがなカタカナが読める人と、読めない人とは、
日本語をマスターする上達度がまるで違ってくる。
具体的な生活だけを通じて日本語を獲得した人は、流暢に感じられても、
細やかな日本語のニュアンスまではなかなか獲得できない。

その点、ひらがなとカタカナだけであっても、
日本語のテキストブックが、日本語で読めるという意味は非常に大きい。



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