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            日常の風景   NO.0211
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ケベックのタクシー

最初の訪問地ケベック市からプリンスエドワード島までは、
鉄道で移動することに決めた。

具体的に記述すると、ケベック市の街はずれに
VIA鉄道のパレという駅がある。
パレ駅からシャーニー駅に行き、シャーニー駅から
モンクトン駅まで14時間の列車の旅を続け、
それからバスで3時間揺られて、やっとプリンスエドワード島の
シャーロットタウンに到着する。

さすが広大なカナダである。
地図で見れば、目と鼻の距離なのに、具体的に移動するとなると、
これだけの時間と体力が必要なのである。

インターネットで予約しておいたので
鉄道のチケットを手にするのは簡単だった。
プリントアウトしておいた書類を窓口で見せるだけでいい。

ただパレ駅は鉄道駅なのに、次の駅、シャーニーまではバスで移動と
係員から聞かされた。
指定された、駅の横手にある乗り場に行くと、
夜の9時である。薄暗くて、人がほとんど見当たらない。
おまけに雨が降っている。

たったひとりだけ、金髪の若い女性が、リュックサックを脇において、
外套の暗い明りをたよりにペーパーバックを読んでいた。
その女性に「シャーニー行きのバスを待っているのですか?」と聞いた。
はっきりとうなずいてくれたので、すこし安心した。

やって来たのは、バスの代わりに、ワゴン車タイプのタクシーだった。
乗客は、初老にさしかかっている鉄道の係員にわたしたちの家族3人。
それと、先ほどの金髪の女性である。

タクシードライバーは、小太りの中年で、髭が濃かった。
しかも不精髭なのか、手入れをしているのか、微妙な長さで密生しているので、
やや、暑苦しいという印象でもあった。

このタクシードライバーと助手席に座った鉄道の係員は顔なじみなのだろう。
タクシーがパレ駅をスタートすると、まるで個室にふたりきりでいるような雰囲気で
おしゃべりが片時も止まらないという状態になった。

それは別にかまわないのだが、優雅に聞こえるささやくようなフランス語も
(ケベックはフランス語圏で市民は全員フランス語を使っている)
興奮して言葉をやりとりすると、大阪のオッサンさんふたりが立ち飲みの酒場で
阪神タイガースのことを話しているのとすこしも変わらない。

しかも、これが日本といちばん違う習慣なのだが、
10秒に一度ぐらいは、運転を続けながら隣とのアイコンタクトをしっかり取るのである。
頻繁に、前を向いたり、横を向いたりするものだから、
わたしたちはほんとうにヒヤヒヤし通しだった。

「オッサン前向いて運転してくれる?」とか
「まったくやかましいな」とか、
関西弁でツッコミをときおり入れるのだが、
もちろん、そんなことにはおかまいなしで、タクシーは夜の雨の街を疾走するのだった。



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sceneryの風景

今回の話題は、前の号「パレ駅の酔っ払い」と重なっています。
タクシーを待っている間に、酔っ払いに出会い、
タクシーに乗ってからが、このヒヤヒヤさせられたドライバーだったのです。

今回の旅の写真です。まだご覧になっていない方はどうぞご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/akage/akage.html

今回の旅行もそうでしたが、世界レベルでの
コンピュータ化のすざまじいまでの勢いを実感します。

たとえ海外であっても、宿泊施設の予約や現地での乗り物の予約は
我が家の茶の間からできます。
予約した証明や支払い済みの証拠は、我が家のパソコンで打ち出す、プリントアウトだけ。

航空券の予約もそうです。
昔なら、空港で小冊子になったような、航空券をもらい、
それを航空会社のカウンターに持って行き、搭乗券をもらったものです。

ところが今は、航空会社のパソコン端末の入力装置に、
パスポートを直接挿入します。
簡単な入力操作はありますが、それだけで、
レシートのような印刷物が打ち出されてきます。
それが搭乗券になるのです。
あまりにも粗末な搭乗券なので、失くしてしまわないかと心配になるほどです。
情報さえ確実であれば、モノはほとんど必要ない世界ということです。

このようにインターネットでの情報網は、緻密に世界に張り巡らされています。
昨日はアメリカの大手証券会社リーマンブラザースが倒産したとのニュースが、
世界を駆け巡り、わたしも背筋が凍る思いがしました。

今日は、アメリカも日本も株式が落ち着いてきましたので、
ほんの少しだけ安心しました(ちなみに私自身が株を持っているわけではありません)

しかし、1929年に発生した、世界大恐慌の時代とは違い、
瞬時に地球規模で圧倒的に伝わる情報。
それに対応できる危機管理の体制はまだできていません。
これから起こるかもしれない世界恐慌に対しては
全く未知の領域でなにが切っ掛けで引き起こされるのか予想もつきません。

アメリカは世界を巻き込み、ずいぶんと危険な賭けをしたものだと思います。



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