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            日常の風景   NO.0214
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虹色のレール

いつもの飲み屋で、生ビールを飲みつつ、手にしたマンガが面白くて、
つい、時間を忘れてしまった。

大阪駅の階段を駆け上がり、やっと間に合った新快速電車。
先頭車両の先頭。運転席が目の前に見える空間で、
しばらくは肩で息をしていた。

なんとか落ち着いてきたので、ゆっくりと客席を見渡して見る。
空いてはいないが、それほど混み合っている電車でもない。
しかし、客席のある中ほどに移動しなければ、座るチャンスはない。

迷ったが、そのままの場所に立っていることにした。
運転席から見える、夜の電車の景色が意外におもしろかったからである。

夜の路線には、数え切れないほどの信号のライトが左右に輝いている。
走行中の電車なので、青信号がほとんどなのだが、
意外に赤信号もかなりの数、点灯している。

あの赤信号にはどのような意味があるのだろうか?
運転手はそれらの信号を気にすることもなく、スピードをどんどん上げてゆく。

レールがあるからといって、電車が真っ暗闇を走ることはない。
常に何らかのひかりに照射されている。
鉄橋を通過するときは、電車自身のライトで橋を明るく照らす。

電車にも自動車のようなアップライトとダウンライトがある。
電車同士がすれ違うときには、互いにライトをダウンに落とすのである。

新快速電車が停まらない通過駅は、プラットホームの両サイドが明るく照らされている。
プラットホームがまるでイルミネーションで飾られたショーボートのようにも見える。
プラットホームで電車を待っている乗客を、
パノラマの人形のように一瞬浮かび上がらせては、あっという間に通過する。

厚いガラスで仕切られている運転席に目を落とすと、
白い手袋をはめ、スピードのコントロールレバーを握る運転手が影絵のように見える。

運転手の前には、数個の円いメーターがあって、それらは海底に陽が差し込んだような、
深いブルーに光っていて、実に格好がいい。
電車の運転手にあこがれる人の気持ちも、なんとなくわかるような気がする。

運転手がする指さし呼称はただの儀式ではない。
アクションを起こす時には、誰が見ているわけではないのに(わたしがじっと見ているのだが)
必ず、声に出して確認してから、具体的なアクションを起こす。
自然に空気を吸うように、すっかり身についている。

これだけ多くの乗客の命を預かっているのだから当然かもしれないが、
緊張を要する大変な仕事だということが、観察しているとよくわかる。

どこまでも続いている電車のレールは鏡のようにぴかぴかである。
毎日の走行でステンレスの鋼板のように磨きこまれている。

鏡のような夜のレールに映る赤信号や青信号は実に妖しい。
レールの上で赤と青が混じり合い、滲み、ふとした角度、配置により、
レールが部分的に虹色に染まる。

夜の電車の運転席。虹色のレール。
ありふれた日常に、こんな発見があった夜は、
ビールの酔いも加わって、とてもうれしい。



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sceneryの風景

毎土曜日に大阪に行くようになったのは、
リタイアしてからまもなくのことだったから、もう大方2年以上になる。

会社や時間の束縛から、完全に解放されて、
おまけに、家庭や地域からも自由になれる土曜日。
自由だから、スケジュールなんてものは、全く持たないと決めた。
でも、この完全な自由を心から楽しめたのは、最初の2、3回だけであった。

完全な自由というのは、とてつもない虚しさをかかえた、
不自由な状態だということに、すぐに気付かされた。

今は、大阪に行っても、コースはほぼ決まっている。
時間でさえあまり狂いが生じない。同じことを繰り返している。
決められたスケジュールがあって、はじめて自由が感じられるというのも、
考えてみれば不思議なことである。



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