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            日常の風景   NO.0217
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落葉の木陰

秋も深くなると、お城のまわりの遊歩道は華やかになる。
真っ赤に色づいたお堀端の桜葉が、遊歩道を赤や黄色に染め上げるのだ。

自転車で彦根駅に急ぐわたしの目の前を、
ときおり枝を離れた落ち葉がまっすぐに落ちてくる。
身じろぎもせずに葉の表を空に向けたまま、糸を引くように遊歩道に着地する。
風がないのだ

多分夕べからずっと、風の動きがまったくないのだろう。
今朝の落ち葉は、桜の木の下にだけある。

夏の日差しが木陰をつくるように、
落ち葉で桜の木陰をつくっている。
赤、緑、黄色、朱色、茶色、贅沢なモザイクの木の影。

お堀の水面はどうなっているのだろうと、気にはなったが、
列車の時間が気になって、先を急ぐ。

2年前、この道を歩いて会社に通勤していた頃は、
季節が移ろってゆく変化の発見が毎日のようにあった。
立ち止まって、お堀の水もゆっくりと眺めたものである。

今は、あのとき以上に時間がたっぷりとあるにも関わらず、
季節の変化には鈍感になってしまった。
現役のときに比べて、外に出る機会が極端に減ってしまって、
感性が摩耗したというより、感性を刺激するモノがまわりから消えたのである。

アマチュアの写真家が、カメラを持って、被写体を探しに行くように、
わたしも、何か題材を求めて、散歩でもした方がいいのかもしれないが、
わざとらしい、あざとさをともなう散歩はわたしの性には合っていない。

夜になり、ビールで酔っ払いになったわたしは、
朝と同じ道を自転車で自宅に向かっている。

落ち葉の木陰がどうなったのか気にかかっていたので、目を凝らして見たが、
夜の主役は、高みから地上を照らす橙色の水銀灯と、
遊歩道沿いに敷設してある、あんどん型の黄色い明りだった。

闇を照らす強いひかりは、落葉の微妙な色合いさえ、ひと色に染めて、
闇とひかりとが交互に投影された一筋の道がずっと続いているだけだった。

酔い覚ましに途中のコンビニで買った、アイスクリームをかじりながら、
自転車を止めて、お堀ものぞいて見る。

人工的なひかりを反射する明るい水面だったが、
わたしの足元は、手前の石垣が陰になって、
どこまでも続く底知れない深淵、暗闇を横たえていた。



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sceneryの風景

わたしが列車に乗る用事というのは、毎土曜日に大阪に行っているからです。
メインの目的は、一週間に一度は英語喫茶で、
外国人のインストラクターを交えて、英語で話すということです。

これが唯一、英語の勉強を続けられる、わたしのインセンティブなのです。
年に一度か二度の外国旅行のためだけなら、多分もう止めていたかも知れません。
何かを書いて表現するという習慣もこの「日常の風景」を維持してゆくということが
大きな支えになっています。

この間、英語のインストラクターから現在のデトロイトの話を聞かされた。
GMの拠点であるデトロイトは車社会という理想をめざして
政策的に、地下鉄も、バス路線も作らなかった。
車で移動するのにほんとうに理想的な街を作ったのである。

ほとんどの市民がマイカーを持つということを前提に。
GMが好景気のときは、ほんとうに理想的で快適な街だった。
今は、車のない、ダウンタウンに住む人は、どこにも行けなくて
完全にスラム化している。
もう二度とデトロイトには行きたくないと言っていた。

価値観がひと色に染められた街というのは、逆境になるとほんとうにもろいものです。
生物のDNAの操作にも、おなじことがいえます。
劣勢の遺伝子も、抹殺するのではなく、社会全体で守ってゆかなくてはなりません。



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