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            日常の風景   NO.0222
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赤穂温泉にて

冬のよわよわしい陽射しはあるが、木枯らしも吹いている。
昼間から飲んだビールの酔いにここちよく身をまかせながら、
たったひとり露天風呂に浸っている。

3mから4mぐらいの檜造りの、真四角の湯船である。
湯船の縁が広くて、30pぐらいはあるだろうか、
座るにも、腕を広げるにも安定感があって、なんとなく落ち着く。

湯船の前には、竹を荒縄で縛り上げただけの簡単な垣があって、
垣の向こうには瀬戸内海の島々が点々と続いていた。

ひとりなので、遠慮することなく、湯船の縁に両腕を広げる。
冬の日差しが、わたしの腕を光らせるが、
若いときのような輝く張りはもうない。残念だがたるみが目立つ。

日差しのぬくみを感じる間もなく、木枯らしの冷たさが腕を刺す。
刺すという表現が大袈裟なメタファーではなく、
ほんとうに文字通り、大気にさらした腕は
痛みを感じるぐらいに冷え込んでくる。

でも、わたしはこの痛みを楽しんでいる。
我慢の限界に達したとき、湯船に腕を戻すと、湯がやさしく絡みつき、
その落差がある種の快感に感じられるのである。

そんな遊びを楽しみながら、冬の北陸温泉のある情景を思い出していた。
風呂場のガラス越しに荒々しい冬の日本海の荒波が見えていた。
時折波しぶきがガラスに直接ぶち当たり荒々しい音を立てていた。
おまけに激しく吹雪いてもいた。
傘をとばされないようにすぼめて差し、難儀して歩く人もちいさく見えた。

温かな温泉にゆうゆうと浸りながら、
あちら側の厳しさと、こちら側のぬくぬくとした風景が忘れられない。

わたしが歩んできた道も、実はこの景色に近かったのかも知れない。
たまたま時代に恵まれたということだけで、大企業にもぐり込み、
懸命に仕事をしたかと問われると、それほどのこともなく適当にこなしていた。

メインロードを歩くのは嫌いで、いつも縁の方を歩いていた。
ぬくぬくとした湯船の縁から向こう側へ落っこちさえしなければ、
縁の方が歩きやすかったのである。

今の時代なら多分生き残れなかっただろう。
縁から突き落されるか、自分で転げ落ちていたに違いない。

落差といえば、今日のこの日も日常から非日常へ落差の大きな日だった。
青春18きっぷがまだ2個残っているというので、
急遽、天気予報を確認して、10分間で旅支度を整え、
相棒と電車に飛び乗ったのである。

日中の露天風呂で今まで過ごしてきた時代とか、幸運とか、宿命とか、偶然とか、
まあ、トータルとしての人生をしみじみと考えたひとときでした。



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sceneryの風景

連日連夜、人員削減、人員整理、赤字、倒産。
暗いニュースばかりです。

なんとか明るい話題をと心のなかで探ってみたのですが、
結局、書きかけのままで放置しておいた、3週間ほど前の話になりました。

青春18きっぷでの日帰り旅行。
年末から赤穂浪士の特集がテレビで何度も映されていたので、
行く先は何となく兵庫県の赤穂になった。

赤穂駅に着いたとき、たまたま昼食の時間だったので、
駅前の観光案内所に飛び込み、この露天風呂のある簡保センターを
案内してもらったのである。

その気になれば、いつでもまったく違う一日にできる。
気分を変えれば、行動が変えられる。
「もう年金生活だから」とネガティブにとらえる人がほとんどだが、
今現在、年金で生活が成り立っている人は、間違いなく時代に恵まれたラッキーな人々だと思う。
せめて自分のために「消費」しません?
それが現在わたしたちができる唯一の社会貢献のような気がするのですが・・・

生活の基盤となる収入がゼロになるのは、
不安が大きすぎて、人としてのまともな精神活動は営めません。
これで充分というわけでは決してありませんが、年金なら失業する心配はもうないのです。

ゼロではなく収入が減るのは、工夫次第ではなんとかなるものです。
しかも、自分の収入だけが減るのではなく、みんなが同じように減って行くという状況なら、
なんとか耐えられる、耐えて行けます。
そんな状況ならわたしにも自信があります。子供時代ですが極端な貧乏は体験もしました。

一部の労働者の収入をゼロにする首切りは絶対に避けて、
みんなで痛みを分かち合う、ワークシェアリングを導入すべきです。

組合活動に多少ともかかわっていた経験者としていわせてもらえば、
今の春闘も完全な時代遅れで、
社会からも国民からも完全に遊離した特権階級の身勝手な闘争に思えます。

厳しい現役世代にはなんとか、耐え合って、支え合って。
時代に恵まれた、わたしたち年金生活者が、消費を下支えする。
それが客観的にみて、時代に恵まれたものの社会への恩返しです。
自分のために年金を使うことがこの時代への貢献です。

わたしも定額給付金には大反対です。
政府が1万2千円ものお金を無条件でくれるのというのに、
多くの国民が反対しているということは、
この国の民意がかなり高くなってきている証明になるのかもしれません。

でも、反対しても、政府が無理にでもくれるというものは、
いさぎよくもらって、貯め込むのではなく、ほんとうにパッと遣いましょうね。
遣えば、めぐりめぐってひとりでもふたりでも雇用の場が確保できるかもしれません。



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