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            日常の風景   NO.0232
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雨のレストラン

お気に入りの窓側の席は、
窓の半分ぐらいが白いレースのカーテンで覆われている。
何時見ても、不自然なぐらいに真っ白なので、
ひょっとすれば、合成樹脂で作られたものかもしれない。

手を伸ばして、触ればすぐにわかるのだが、
一度も触ったことはない。
どちらでもいいことである。そのようなことにあまり興味はない。

窓の外は、夕暮れと、夜の闇が微妙に混じり合った黄昏時である。
強い雨が降っているが、雨音はほとんど聞こえない。
レストランに流れる、官能的でスローテンポの
テナーサックスの音色が雨音を消している。

間接照明をうまく利用した、ほのかな明かりが灯るレストランと、
ガラス窓一枚で仕切られた、黄昏の空間とが溶け合い、
砕けた雨粒がときおりツーと流れる窓ガラスに、
前衛絵画のような、不思議な景色が描かれる。

レストランの室内照明が、一度窓ガラスに写し込まれ、
雨に打たれ、けなげにふるえている外の赤い花と融合するのだ。
窓に張り付いた雨粒が、その景色を乱反射させ、効果をさらに強める。

物憂い、テナーサックスの響きも相まって、
「デカダンス」ということばが脳裏をよぎった。
この時空はデカダンスそのものだとふと思ったのである。

若いころは「デカダンス」という言葉が大嫌いだった。
一般的には「退廃」という意味で使用されていると思う。
あらためて、辞書を引いてみると、
虚無的、退廃的、病的な唯美性、退廃的な風潮や生活態度などとある。
わたしが思い描いていたイメージどおりの意味だった。

確かに、若さとデカダンスとは共存できないのが普通である。
だが、年を取り、生命力そのものに勢いがなくなってくると、
デカダンスに非常に魅かれる自分がいる。

デカダンスもフランス語だったが、そういえば、
もうひとつのフランス語でアンニュイという言葉がはやったことがある。

かったるい感じ、ものうい感じ、あきあきした感じのことで、
デカダンスとは共通する言葉であるが、
軽く使えるアンニュイには若いころからあまり抵抗がなかった。

ということは、デカダンスの気分そのものも、
若い時分から内包していたということで、
年を取ったから、考えが変わったということではないのかも知れない。



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sceneryの風景

わたしが住んでいる地域は完全な住宅地で、近くにお店などは何もない。
子供の時代には、駄菓子屋が2件もあり、八百屋もあり、
お風呂屋もあり、乾物屋などもあったが、時代がそれらのお店を一掃してしまった。

唯一の例外が、小さな中華レストランである。
歩いて1分ぐらいの場所にあるから、ビールもゆっくりと飲めるし、
ときおり利用させてもらっている。

週に2日間だけであるが、家事を引き受けるようになって、
一番あたまを悩ますのが、やはり料理だと思う。
買い物、下ごしらえ、調理、盛り付け、皿洗い。

それがわかってから、相棒には、
「料理を作る気がしないときには、いつでも外食でええよ」
と言ってある。

今夜の相棒がその気分だった。
ふたりともすこし風邪ぎみで、日中ずっとアンニュイな気分だった。

風邪気味だったから、ビールもやめておくつもりだったが、
出された料理をみるとたまらずに、「一本だけ」
それを飲み終わると「もう一本」と、いつものデカダンス。



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