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            日常の風景   NO.0234
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アメンボ

チケットの指定席への引換は朝の9時から受け付けるとあった。
今までの経験から、たくさんの人が一度に押し掛けるのはわかっていたので、
思い切って2時間前から並ぶことにした。朝の7時である。

だが、会場である彦根文化プラザには、もう長蛇の列ができていて、
どこが列の最終にあたるのかがよくわからない。
やっと探し当てた最終尾は、建物の廊下からははみ出した、中庭であった。

みんな用意がいい。携帯用のパイプいすを持参してきている。
わたしが持ってきたのは、今朝の新聞だけ。
すぐに読み終えてしまった。小説か随筆をもってくるべきだったのだ。

まだ朝が早い間は、複雑な建物の影に救われていたのだが、
徐々に陽が高くなり、まともに夏の日差しにさらされるようになった。
このとき、持参した新聞が日傘代わりに間に合ったのである。

まわりの人にも配る。親しく口をきくことはないが、
なんとなく過酷な環境のもと、同志という連帯感が生まれつつあった。

わたしの横には、細かな白いタイルが埋め込まれた浅い水たまりがあった。
魚もいない。池でもない。噴水もない。プールでもない。
ただ単に水があるというだけの、中途半端な中庭の背景である。

白いタイルに文化プラザの建物と青空が映し込まれている。
青空を飛ぶように、アメンボがぴょんぴょんと跳ねてゆく。
あらためてよく水たまりを見てみれば、多くのアメンボが滑走していた。

大きなアメンボと小さなアメンボがいる。
大きなアメンボには足が8本あった。
スケッチ的に表現すればXXのような形で、真中の足がクロスしている。

小さなアメンボには足が4本。
水に接触しているのは、足の4ヶ所と頭から下に延びているひげのような触覚。
全部で6ヶ所の水面が小さくたわみ、本体のボディを支えている。
ボディは直接水には接触していない。

前に進む推進力は前足の2本のみ。
たまに1、2cmジャンプするときは後ろ足の2本を使う。

頭から新聞を防空頭巾のようにかぶり、1時間もアメンボを観察していると、
いろいろな発見がある。

2種類のアメンボがいると思ったのは完全な錯覚で、恋の季節だった。
わたしが錯覚したのも無理はない。
すいすいと滑走している姿は、ほんとうに一心同体。
うらやましいような、息の合い方である。

でも、パートナーを見つけるのは、アメンボの世界でも大変みたい。
近づいても近づいても、邪険に追い払われる孤独なアメンボもいっぱいいる。

一心同体とわたしが観察したのも、ひょっとすれば錯覚かもしれない。
前に進む舵取りを任されていのが、多分メス。
オスが思い通りにならないのにジレて、自分の権利である後ろ足を使うのかもしれない。
そういえは、8本足のアメンボは独身に比べてよくジャンプをするのである。

空中楼閣のようなアメンボの日常。



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sceneryの風景

あらためてネットでアメンボを調べてみると以下のような説明である。

「6本の脚があるが、中脚と後脚が細長く発達しており、前脚は短い。
脚全体に細かい毛が密生しており、
水の表面張力を利用して水面上に立ち、自由に移動する。
また、脚以外の全身も水を弾く。
おもに前脚と後脚の計4本で身体を支え、中脚で水面を蹴り、
滑るように移動する。水面の蹴り方によっては素早いジャンプもできる」

6本の脚と書いてあるので、わたしが本文のなかで、髭のような触覚と書いたのが、
どうも前足らしい。わたしが前足と書いているのは中足のようである。
でも「日常の風景」あくまでも個人の印象、主観の表現なので、お許しいただきたい。

コロッケのモノマネショーのチケットを2枚、息子からもらった。
地元彦根の文化プラザにやってくるのだという。

いままでにもこの種のチケットをもらったことがあるが、
演歌歌手とか民謡とかが多くて、わたしの趣味の世界ではまったくない。
しかし、演歌や民謡も生の舞台の雰囲気は、テレビでは決して味わえない。
ジャンルは違っていても見る価値は十分にある。

座席についたときは、まわりがほとんど顔見知りだった。
2時間近く、そばにいたのだから、顔は自然に覚える。
トイレで列を離れるときに声を掛け合ったり、新聞を配ったりしたものだから、
ショーが始まる前から、なんとなく和やかな雰囲気が出来上がっていた。



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