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            日常の風景   NO.0221
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文は人なり

正式な名称は近畿文芸連盟。
名前を聞いただけで、クラッシックでロートルな雰囲気は否めない。
今日はその通称、近文連の新年会なのである。

JR高槻駅からローカルバスに揺られること40分。
樫田温泉という山間部のひなびた温泉に集合した。

集った9人のメンバーを眺めてみても、
3年前に定年退職をしたわたしが2番目の若手になるのだから、
後はもう推して知るべしである。

会場に着くとすぐに宴会が始まった。
すき焼きと鶏鍋。
3つの鍋からすぐに暖かな湯気が立ちのぼり、
それぞれの席についたにわか鍋奉行がかまびすしい。

ほぼ全員がNTTのOBで文学好き。
ただそれだけの共通点でもう30年以上の付き合いになるのだから、
人と人とを結びつける文学という接着剤の確かさをあらためて確認させられた。

現役時代、仕事が終わってから、共通の愚痴や不満をさかなに
今日はあの店、この店と飲み歩いていた、K君やN君。
「仕事を辞めても、たまには会おうな」と送別会で固く握手して別れたけど、
ご多聞に漏れず、結局年賀状だけの付き合いになってしまった。

表面上親しそうに見える会社での付き合いに比較して
近文連の30年におよぶ付き合いは、共通の趣味が文学だというだけではない。
やはりその中心にいる人だと思う。

2種類を混ぜ合わせて使用する接着剤のように、片方のチューブには文学、
もう片方のチューブにはみんなの気持ちをまとめてくれる中心的な人が欠かせない。

年に一度だが「竹の花」という文芸雑誌を発行している。
今年でもう10号になるので、10年間続いたことになる。
原稿を集めて、雑誌の形にする地味な仕事に黙々と取り組んでくれている人がいる。
その前は「葦笛のひろば」その前は遠い昔のことでもう忘れた。

「文は人なり」という言葉があるが、
この雑誌に発表される俳句、川柳、短歌、詩、随筆、小説などをずっと読んでいると、
その人の考えはもちろん、背景にある家族構成から、
夫婦仲がいいのか悪いのか、親の介護をしなければならない環境であるとか、
家族の関係はうまくいっているのかまで、推察できるようになる。
だから、より親しみが湧いてくるともいえるのである。

宴会が一段落したので「竹の花」10号の合評会になった。
なんとか、作品のレベルをすこしでも上げたいという人の集まりなので、
ときには辛辣な批評も飛び出すが、会場は熱気に包まれてくる。

はっと気がつけば、もう帰りのバスの時間になっていた。
僻地なので、バスの本数が数えるほどなのだ。
折角温泉に来たのだから、タオルも持参してきたのだし、
天然石を組んでつくられた大浴場や、周りの山々を見渡しながらの露天風呂にも入ってみたかったが、
やはり、温泉よりも久しぶりに再会できた仲間との会話の方が温まる。



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sceneryの風景

近文連の新年会に興味がある方は、どうぞ写真をご覧ください
http://www.imagegateway.net/a?i=2DLlbLe1qr

「文は人なり」を今回のタイトルにしたのには理由がある。
前号の「秘密の特訓」でわたしは以下のように書いた。

一度だけ、子供で、わたしが相手の王を追い詰め、後1手か2手で詰みという
局面で、相手がまるで関係のない駒を動かしたので、
無視して王手を続けると、その瞬間あっという間に、わたしの王さまを取って、
ニヤリと笑うとすぐに立ち上がった子供がいた。

遠くの角道が王さまに当たったのを見過ごしたのだ。
確かに弁解をするまでもなく歴然と勝負はわたしの負けである。
でもこの子供、ある程度の才能はあるのだろうが、
人間としての社会性がいびつで、これで大丈夫なのかなと、
呆気に取られながら、こころが干からびて行くような乾いた感じがした。

文学仲間の先輩から、以下のような感想をもらった。

sceneryくんの今回の「日常の風景・秘密の特訓」面白くよみました。
sceneryの風景の将棋会館でこっそと勝てにやりと去る男の子の話は特に面白い。
作者はこんな勝ち方では社会的にいいものにはならんでと怒っているが、
スポーツにしろ、勝負事は左右に揺さぶるとか、ネットを狙うとか、卑怯な事をしなければ互角では勝負がつかない。
見落としていれば負けである。それで社会的にいびつであるとか、おかしくなるとか考える事事態がおかしい。
子供にしてはわなに引き釣りづり込んで、してやったりの気持ちだろう。
日ごろは冷静そうなsceneryくん、著者の心理の動きが見えて面白い。


わたしはできるだけ、自分のネガティブな感情は書かないようにしている。
(この態度は文学の本質からは乖離している。楽しく書くためにはこれでいいのだとある意味開き直りです)
一日のうち23時間と55分間ふさぎこんでいても、5分間だけでもうれしいことがあれば、
そのうれしいことにフォーカスを当てて書いてきた。

ところがわずか2行で、本質を見透かされたというか。
確かに文章というものは、鋭い読み手にかかると裸にされると実感しました。

将棋会館での出来事をあらためて振り返ってみると、
子供といえども才能のある子供達の集団で、礼儀作法はみんなしっかりとしていました。
勝負をする前はきちんと頭を下げて「よろしくお願いします」といいます。

勝負が終われば、敗者をいたわって簡単な感想戦をするというのが普通だったのです。
だから、わたしの目線は、相手が子供だということをすっかり忘れていました。
今読み返してみると、やっぱりかなり感情的ですね。



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