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            日常の風景   NO.0224
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こころの光と影

わたしの好きだった作家のひとりに遠藤周作がいる。
彼は人間と神のかかわりをテーマに、生涯、純文学を書いていたが、
一方狐狸庵の名前で、人間のぐうたらさ、剽軽さ、軽薄さなどの
まったくガラリと違う世界も軽妙に表現した。

最近テレビで、遠藤周作が、自分は2重人格者ではないかと、
長い間悩み続けたと語っている古い映像を見た。
その彼が、河合隼雄の「影の現象学」という本に救われたと
言っているのを聞いて、わたしも早速図書館で借りて読んで見た。

期待に反して、本格的なユングの心理学書だった。
だから全部を読み切ったわけではない。
要するに人間が心のなかに宿している影とか闇の部分は、
まぎれもなく、もうひとりの自分であるということだ。

だから、2重人格、3重人格というのはあたりまえのことで、
ひとには表と裏があるのは当然だし、
影の部分の方が、人格の本体で、日常のわたしは仮面をつけた、影かも知れないのである。

曲がりなりにも、文字で何かを表現したいと筆を持っているひとには、
このような矛盾は常に付きまとうものだと思う。
「自分でも自分のことがよくわからない」というのが、正直な実感なのではないだろうか。

わたしは、小説という形式の芸術が、他のジャンルに比較して、
一歩突き抜けていると感じられるのは、
自分なかにある、この光の部分と影の部分を対話させることができる点だと思う。

きわめて単純化していえば、表舞台に立つ主人公も自分の一部であるし、
その主人公を批判したり、いじわるしたり、
さまざまな異なった考えを持つ脇役たちも、まぎれもくな自分の一部であるということである。

ほんのわずかな経験からいえば、小説を書く作業はとても苦しくて、虚しい。
しかし、小説を書きながら、自分のなかの光と影に向き合うと、
一作を書きあげるごとに作者は成長してゆく。

どのような大作家も、自分のなかに作家としての才能があると
最初から自信を持っていた作家などほとんどいない。
小説家とはそのような苦しい作業を続けながら、
自己が内包するあたらしい人格を発見してゆく仕事なのだと思う。

ほんとうの自分は、実は具体的になす行為でしか、表現することができません。
みんな心のなかに、身勝手で、利己的で、醜い、虚しいものを抱えています。
それにみんな気がつかないふりをして生きているだけなのです。

だから、具体的な行動をしなければ、こころの影におびえる必要はありません。
逆にこれは、こころの光の部分にもいえます。
どれだけ、博愛的で慈悲に満ちたことを考えていても、
具体的な行為がなければ、それはなにもないのと同じことです。



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sceneryの風景

学生時代以来、久しぶりに、本格的な心理学書を読んで興奮したのか、
今回の風景はわたしのあまり好きではない演説そのものです。

文章に余韻も膨らみもなにもない。
一方的に自分の考え、結論を読者に押しつける。
このたぐいの文章を書くのは非常に楽チンなのです。
作者が楽をすると、当然読者はおもしろくありません。
まあ、今回はお許し下さい。

人生を自分に用意された壮大な舞台だと考えることはどうでしょう。
主役であるわたしという役者が、メイクをし、どうらんを塗り、
檜舞台でどのようなパーフォーマンス(行為)ができたか。
それが人生というものではないでしょうか?

メイクを落とした主役の素顔を見たいと思う観客は誰もいません。



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