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            日常の風景   NO.0233
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深夜の高速バス

深夜の零時過ぎ、24時間オープンしている駅前のコンビニで、
缶ビールと簡単なつまみを買った。
彦根駅前には、もうすでに東京行きの高速バスが横づけされていた。

バスの係員に名前のチェックをされただけで、バスに乗り込む。
インターネットで予約しておいたので、切符のようなものは
元々何もないのだ。バスはほぼ満席だった。

シングル、カップル、グループ。
男性も女性もいるが、例外なく、ほとんどが若者である。

団塊の時代とほぼ同じ時代を生きてきたわたしたち。
今まで、ほとんどの状況において、
わたしたちの世代が圧倒的な多数で、主流派だった。

自身が例外という状況に置かれることには、まったく慣れていない。
こそこそという感じで、指定された席に座り、
まわりのみんながしているように、リクライニングシートを深く沈めた。

バスが走り出すと、すぐに車内のあかりが消され、真っ暗になった。
窓はすべて厚手のカーテンで覆われているので、
文字通り真っ暗なのである。

そこでふと、コンビニで購入したビールのことを思い出した。
手探りでカバンのなかから、ビールとつまみを探り出す。
闇のなかで、ガサゴソというビニール袋がこすれ合う音が異様に高く響く。

ようやく手にした缶ビール。眠り薬のつもりで購入したのだが、
まさか、真っ暗闇のなかで、からだを斜めに傾け、
まるで首筋の筋肉を鍛える体操中のように、
頭を不自然に持ち上げたまま飲むはめになるとは夢にも思わなかった。

それでも缶ビールの効果はそれなりにはあったのだろう。
ウトウトしているうちに、午前2時過ぎ、どこかのパーキングエリアに着いた。

丑三つ時のパーキングエリア。
信じられないほど多くの人がたむろしている。
自動販売機の照明は、煌々とまぶしいぐらいだし、
みやげもの販売も、昼間と変わらず活気があり、それなりに売れている。

バスは15分間の休憩を取ると、すぐにまた走り出した。
若者は何事もなかったかのように、すぐにまた眠る。
うらやましいことである。

わたしは頼りにしていたビールの神通力が切れたので、
今度は簡単には寝付かれない。
頭が朦朧として、鈍痛がする。腰もあちこち痛くなってきた。

朝の6時になるのを待ちかねて、カーテンを少し開ける。
ほんのすこし開けただけだが、
車内には、たじろぎ、みじろぎ、狼狽するぐらい大量のひかりが飛び込んできた。

普通なら、あわてて再度カーテンを閉める場面だが、
そこは、それ、老人力と鈍感力とを発揮して、
そのまま大都会の早朝の景色をカーテンの隙間から楽しむ。

痛い腰をさすりながら、高速バスで東京に行くのも
これが最後になるのかもしれないなと、ふと思った。



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sceneryの風景

全電通作家集団の同窓会を東京でやりますという案内をもらった。
文学活動が盛んだった時代、2年に一度は全国のあちこちで、
総会を開いて、出版した小説の批評や、文学論を拝聴してきた仲間達である。

案内をもらったときに、迷うことなくすぐに出席を決めた。
年賀状のやりとりだけに終始し、具体的には、もう何十年も出会っていない人も多い。
一期一会、会える機会があれば、できるだけ会っておきたいと思う。

しかし、深夜の高速バスは確かにもうきつい。
近畿から同じように高速バスで上京した仲間と携帯で連絡を取り合い、
御徒町のサウナで休息をとることにした。

風呂上がりで気分がさっぱりすると、
朝食をアテにして、ちょっと生ビールでもということになる。
午後からの集会にはかなりの時間があるので、
上野のアメヤ横丁あたりで、昼食を兼ね、また一杯という自然な流れになる。

よく考えてみれば、新幹線代を節約した分、すべてが
飲み代に消えたという計算にもなるわけである。

「全電通作家集団の集い」の写真です
http://www.imagegateway.net/a?i=29wlZJH0UJ

宿泊したホテルは、上野不忍池近くにある
水月ホテル鴎外荘という、文豪森鴎外の住居が
ホテルのなかに保存されている、格調の高いホテルでした。
いかにも文学集団が選びそうな趣のあるホテルでした。



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