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            日常の風景   NO.0230
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白い桜木

どうした気圧のいたずらか、快晴なのに強風が吹きつけている。
まるで台風の前兆のような風速なのである。
風は見慣れた堀端の景色を、片時も休まずに激しく揺さぶり続けている。

波立つお堀の水。しなやかに姿勢を低くする雑草。
沸きたつ喜びを表現しているかのようにうねる城山の樹木。

すっぽりとビニールシートで覆われた、建築中のビルが、
絶え間なく、バタバタバタバタとけたたましい騒音をまき散らしているが、
ふしぎなことにあまり気にならない。
騒音でさえ、景色に溶け込んでいる感じがするのだ。

晩春の風は、冬の木枯らしとは性格がまるで違う。
風にぬくみがある。ほどよいしめりがある。
堀端を歩くのも、風が背中を押してくれるので、いつもより楽チンである。

変化のない日常に、やや倦んでいた今日のわたしの気分に、
刺激的な強い風は、なによりの気分転換になった。
どっしり、悠然と構えている石垣以外の景色が、
まったく違う表情を見せてくれるのだ。

風に背中を押されるようにして、
彦根市立図書館までぶらぶらと彦根城のふもとを歩く。
平日にも関わらず、バス旅行の団体がバスから次々と降りてくる。

ふるさとが観光地というのも悪くない。
華やかで、みんな機嫌の良い顔をしているし、
わたしは地元のただの生活者なのだが、
旅の気分に沸きたつ観光客から、元気がもらえるような気がするのである。

そんなときである。ぼんやりと観光客の一団を見ていたわたしの目の端が、
なにか奇妙で、鮮やかな現象をとらえた。
堀端に並ぶ新緑の桜が、一斉に白くなったように感じられたのだ。

観光客から桜の樹に視点を移動させると、やはり錯覚ではなかった。
下からの突風にあおられて、桜の葉っぱが、
一斉に葉裏をわたしに見せている。

桜の葉は、表は輝くような艶やかな緑色だが、
葉裏はかなり色が違っていて、むしろ白っぽいのだ。

行きすぎてからその白い桜を、振り返ってみると、
反対側から見た桜は、葉の表ばかりが目立ちいつもよりは緑が深くて、
風にうねっていると一瞬感じられた。

しかし、実際のところははっきりとはわからない。
逆光だったからである。
わたしは実際の現象をわざと確認しなかった。

一瞬脳裏をよぎった、風によって色を変える桜というイメージを
大切にしたかったのである。
木の半分が白で、それを反対側から見れば緑の桜。
吹く風によって、緑の桜木が、一瞬にして白い桜木になる。

わたしは風に吹かれて散歩しながら、風というイメージとも遊んでいる。
イメージとしての風はそれこそ、状況によって無数の意味、含みがある。
風は時代、風は変化、風は流動、風は刷新、風は希望。風は自由。
この年になって、風を吹かせたいとはさすがに思わないが、
まだ風に乗りたいと思っている。



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sceneryの風景

将棋というゲームはわたしの気質に非常に合っている。
定跡や手筋や詰将棋の形を少しずつ覚えるのは、
英語のことばや文章をこつこつと覚えて行く努力に非常に似ている。

もちろん、定跡や手筋を覚えたからといってすぐに強くなれるわけではない。
英会話の本を少しぐらい読んでも、すぐに話せるようにはならないのと同じようにね。

第一、定跡を覚えて、実際の対局で定跡通り進むことなど一度もない。
英語の会話も同じである。
英語落語のまくらにこんな話がある。
中学で最初に習う英語「This is a pen.」「I am a boy.」

わたしも実際の場面で一度も使う機会がなかった。

落語の落ちは「見たらわかるやろ」であるが、
それでもやはり、覚えなくては始まらないのである。



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