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            日常の風景   NO.0226
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竹田城址を歩く

ふもとにある桜はほぼ満開だったが、竹田城址の桜は、
まだ3分咲き程度だった。
標高353mという高度差が、開花の時期をそれだけ遅らせるのだろう。

典型的な中世の山城である竹田城址は、わたしが想像していたよりも、
ずっと規模が大きく、まさに天空の城址であった。

壮大な城址にもかかわらず、石垣の上には、数本の松や桜以外は
真っ平らに突き固められた黄土色の台地があるだけで、
建物はおろか一切の人工物は排除されていた。

売店も、旗も、のぼりも、ポスターも、ごみ箱もない。
そのようなシンプルさが、何よりもわたしのこころの琴線に触れる。

絵ハガキを見ると城址のまわりを雲海がとりかこむ時期があるらしい。
宮崎アニメ「天空の城ラピュタ」の世界を彷彿とさせている。

頂上の天守台跡に立つと、遠くの山々や近くの渓谷のすばらしい眺望が望める。
石垣の台地は、よく整備された棚田のようで、
関西のマチュピチュと呼ばれている意味も、
大げさな比喩などではなく、こころから納得できた。

城址の坂道をぶらぶらと散策すると、ふもとは春爛漫なのに、
ここはまだ中世の城址にふさわしく、冬枯れの寂寞とした雰囲気が残っていた。

左右に続く潅木地帯で目立つものは、立ち枯れたススキであったり、
縁が縮れたように茶色く変色している熊笹だったりする。
風が吹くたびに、それらが一斉にカサカサと乾いた音をたてるのである。

まるで仲間同士が、会話をし、ささやきあっているような音だった。
若者の勢いのある会話ではない。
老人が交わす、愚痴、不満、不安、噂、悲鳴、苦痛、諦観。

そういえば、竹田城址での花見に結集した10余名の仲間達も
もう完全な老人集団になってしまった。
昔なら最後の一滴まで飲みほしていたに違いない酒やビールも、
宴会が終わったのに飲み切れず、幹事のリュックサックを膨らませていた。

現役で仕事をしているときは、わたしにも数多く職場の仲間がいた。
転勤と同時に、仲間は単なる知人になった。
退職と同時に、仲間は他人になった。

唯一の例外が今日竹田城址に結集した文芸サークルの仲間達である。
職場を通じて知り合った仲間でありながら
文学という接着剤に助けられ、退職後もずっと近しい友人達である。

風が吹くたびに、メインロードからは離れた隅っこでそれぞれちいさな声を上げている
枯れたススキや、緑の部分は残しているが今にも枯れそうな熊笹達。
一斉にざわめいているそれらの音は、
オーケストラのメロディ部を蔭で支える、重奏和音のようにも聴こえる。

そんなときである。山々に響き渡るほどの伸びのある高音で
鶯がみたび立て続けに鳴いてくれたのである。
自然が奏でるコンサートだったとすれば、印象的な名演奏だった。



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sceneryの風景

竹田城址の当日の写真です。
http://www.imagegateway.net/a?i=3DLkgKx0UJ

幹事から『竹の花 春の豪華鈍行の花旅のご案内』という案内をもらうまで、
竹田城という存在そのものをわたしはまったく知りませんでした。
もう恒例になっている青春18きっぷを利用しての花見です。

『竹の花』というのはわたしたちが年に一回だけ細々と続けている
同人誌のタイトルです。
同人誌と呼べるかどうか、まあ簡単な小冊子を想像してください。

ジャンルはバラエティに富んでいます。
小説、随筆、紀行文、伝記、写真、詩、短歌、俳句、川柳など、
活字になるものなら何でもOKなのです。

竹田城は1400年代に中世の武将、山名宗全が築城したと伝えられています。

姫路駅で播但線に乗り換え約一時間。
竹田駅のすぐ近くに、中世の山城、竹田城址はそびえています。



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