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            日常の風景   NO.0241
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ババ抜き

何気なく最初にタイトルを書いたとき、ちょっと不思議な違和感があった。
わたしたちが子供のころ「ババ抜き」といえばトランプのゲーム以外の意味はなかった。
今では、違う意味で使われることが圧倒的に多いような気がする。

ババ抜きを真剣に勝ち負けのゲームとして競っていた子供のころ、
誰かが、ジョーカー抜きのババ抜きを考えたことがある。
まずジョーカーを外し、残ったカードからもう一枚を適当に抜くのである。

こうしてゲームを進行させると、当然最後に一枚残る。
残ったカードが、ジョーカーだったと最後になって判明するわけであるが、
このやり方は、まったく面白くなかった。

ジョーカーがあればこそのババ抜きである。
大人同士がやれば、高度な心理ゲームになる。
最後の2枚ぐらいになれば、札を手のひらに隠してしまって、
上か下かと言葉で選択させる人がいるがあれも間違い。ババ抜きの真髄を外している。

今年で五歳になる孫の颯は最近ハバ抜きに夢中である。
ジョーカーを取ったり、取られたり。ババ抜きの面白さにハマり込んだのであるが、
実はこれはわたしの演出がなせる技だった。

颯のババ抜きに付き合うのは、わたしにとっては我慢大会の様相になる。
もうひとりの孫、三歳になる優空が、そばで同じようにゲームをしたがる。
しかし、優空はまだババ抜きの意味がよくわかっていない。

颯とはババ抜きを、優空とは形だけを真似た、
まったく意味のないゲームを同時進行で始めなければならないのである。

颯はカードを自分自身で配りたがるのだが、
全部は手に余るので、三分の一ぐらいのカードを適当に配り出す。
数字がちゃんとペアになっていないものだから、
最後には揃いようのないカードばかりが残り、エンドレスのゲームになる。

だが、ジョーカーがある限り、颯にはこんな意味のないゲームでも面白いのである。
颯にジョーカーを引かせるのは簡単。
手に持ったカードの中央部分の取りやすい位置に、
大きくさらしておくと、ほとんどそれを取る。

颯からジョーカーを引き戻すのも、百発百中である。
わたしから引いたジョーカーを適当に自分の手札に納めるだけだから、
カードから目を離さなければ、必ず当たる。

ジョーカーが互いの手元を行き来するたびに、颯は声をあげて笑う。
わたしには退屈きわまりないゲームだが、
大声で笑い転げる颯を見て、ふとうらやましいと思った。

こんなにも、騙しやすく、騙されやすい時期というのは人生のごくひととき。
意味も、終わりも、理屈もないが、その瞬間が面白いと感じられる。
こんな時間こそが、大人も求めつづけている純粋な遊びなのかもしれない。



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sceneryの風景

孫がちいさい頃のおもしろいエピソードはいろいろあったが、
書き止めておかないとすぐに忘れてしまう。

数年前に、ホームステイのホストファミリーになったことがあった。
週末に外国人の学生をわたしの家であずかったのである。

孫の颯に英語で名前をいわせようと、事前に
マイ ネーム イズ 颯 と何度も教えた。

さて本番、アメリカ人の学生の前に立った颯は、大きな声で、
マヨネーズ 颯 といった。

みんな大笑い。
学生も笑っていたが、多分笑いの意味はわからなかったと思う。



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