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            日常の風景   NO.0247
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悼む人

最近、友人、知人など身近な人がつぎつぎと去ってゆく。
年齢を考えると、すこしも不思議なことではないのだが、
やはり、かかわりのあった人々が亡くなってゆくのはさみしい。

そんなときに天童荒太の小説「悼む人」に出会った。
出会ったといういういい方はすこしおかしい。
出会えるべく図書館に予約登録しておいた本が
絶妙のタイミングで、わたしの手元に届いたと説明すべきである。

新聞やテレビを見ていても、病気や老衰だけではなく
殺人、事故、自殺、災害などで次々と人が亡くなってゆく。
そんなニュースを目にした一瞬だけ、わたしは多少の悼みを感じるが、
知らない人の死は右から左へと通過し、すぐに忘れてしまう。

この小説の重要なテーマは、人間の死というものが、
そんなことでいいのだろうかという、読者に向けての根本的な問いかけである。

作者は訴える。
「普通の主婦なんていません。特別な人です」
「一般市民という人間もいません。特別な人が死んでいます。特別な人が殺されています」

インターネットを通じて「悼む人」と呼ばれるようになる主人公は
新聞や雑誌の記事などを通じて、殺人、事故、自殺などの現場に実際足を運び
全国の死者をたずね歩く旅を続ける。ほとんどが野宿である。

彼は事故の状況や死因などは決して尋ねない。
「誰に愛され、また誰を愛していたか、どんなことで人に感謝されいたか」を
尋ねまわり、ノートに書き込み、ひとりひとり繰り返し覚えていくのである。
そしてひたすら彼なりの儀式、作法で悼む。

当然、人々は不審に思う。あかの他人を悼むという彼の行動は理解されない。
まわりと様々な摩擦を引き起こし、精神異常者、変人扱いされ、激しくののしられる。
それでも、何かに突き動かされるように彼は過酷な旅を続けるのである。

説明を求められると彼は「故人のことをずっと覚えておくつもりだ」と答える。
ある家族で中学生の娘が「嘘つき」と彼をののしった。
「覚えるというのが嘘でないなら、命日に電話するように」と、テレホンカードを彼に渡す。

以後、彼は命日になると家族に電話を掛け続けるのである。
信じられないような彼の行為に家族が「どうして?」と問うと、
彼は首を小さく横に振りながら「どうしてですって?約束したじゃないですか」

かれは悼みについてひたすらこの言葉を繰り返す。
「その人にとって幸せだったであろう時間や出来事で、覚えていられたらと思うだけです」

まさに、現代のキリストその人である。
現代のキリストというテーマでは、遠藤周作がすでに
「わたしが棄てた女」や「おバカさん」などで繰り返し書いていたが、
やはり小説は生モノだと思う。

遠藤周作の時代には、携帯電話やインターネットはなかった。
天童荒太というすぐれた作家により、
新しいタイプのキリストが創造されたような気がして、わたしも慰められた。



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sceneryの風景

現役時代は、会社人間ではまったくなかったということが幸いしてか、
定年退職後の時間を退屈だと思ったことは一度もない。

それどころか、毎日時間が足りないのである。
家事やボランティアの時間は自ら志願したので、ごく自然に時間が使える。
残りの時間は、文学関係、英語関係、読書関係、ネット関係、音楽関係などで埋まる。
そして孫守り関係という時間がときどき突発的に発生して、スケジュールを狂わせる。
最近これに将棋関係という時間がかなりのウエートを占めるようになった。

前にも書いたが、将棋の勉強は英会話の勉強に似ている。
英語ではレストランでとか空港でとか、具体的な状況設定があり、
そこでの会話を練習するわけだが、
覚えたフレーズが実際にそのまま役に立ったことはほとんどない。

将棋も、この局面ではああ指す、こう指すという本はいっぱいあるのだが、
実戦で同じ局面になることは一度もない。
だが、このような練習というのは、役に立たないようでも必要なのである。

音楽関係の時間は、元々ながら族なので、なんの問題もないが、
将棋関係が割り込んだおかげで一番割りを食ったのが、読書関係である。

NHKの「週刊ブックレビュー」という番組を見て、
読んだ人の感想を聞くだけの、読書とは言えない読書がほとんどになった。
でも、紹介される10冊に1冊ぐらいは、本当に読んでみたいと思うので、
そんな本は、パソコンを通じて図書館に予約をしておく。

本を図書館で借りる最大のメリットは、読む時間が限定されているということ。
特に話題性の高い人気のある本は、
「次の予約があるので、なるべく早くお返しください」とのしおりまで入っている。

図書館から予約しておいた本の連絡があったときは、
なんとか読書の時間も捻出するようにはしている。



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