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            日常の風景   NO.0260
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いつか行こう

「いつか、遊びにおいでよ」
「うん、暇を見つけて、そのうち行くわ」

なんて、会話で実際にその家に遊びに行ったら常識が疑われる。
さようならと変わらない、挨拶にすぎないからだ。

久しぶりに会った友人と飲み、そして別れるとき、
「今度は、いつかどこかの温泉にでも行きたいね」
「いいね、もっとゆっくり腰を落ち着けて一晩中飲もうや」

日本語は、英語などとは違って、さようなら等、挨拶のバリエーションが、
ほぼ、無数にあるといっていい。
その言い回しは、多肢多様、バラエティがあり、陰影に富んでいて、
ニュアンスも微妙に表現できる。

わたしは、自分の母国語が日本語でよかったと心から思っている。
表面を整えている言葉と、具体的な意味とは、かなりの距離があるが、
日本人同士なら、それは相手に対しての思いやり、
いたわりだということが瞬時にわかる。

もし、外国人の友人に英語で、日本語の感覚で
「アイ、ウオント、ツウ、ゴー、ホットスプリング、サムデイ、ウイズ、ユー」
(いつか、温泉に行きたいね)なんて、言葉を投げかけたら、
まず、間違いなく「フエン(いつ?)」と聞き返してくるのは間違いない。

外国人が問い返す「フエン(いつ?)」という言葉は
実は日本語でもきわめて重要なキーワードになっている。
単なる挨拶なのか、具体的な提案なのかの決定的な違いになる。

「いつか、遊びにおいでよ」
という挨拶の、いつかにという言葉に代えて、
「今度の日曜日、遊びにおいでよ」
と、言えば言葉が本来の意味を持ってくる。

普段は日本語の欠点や弱点を意識することはないが、
身近な家庭内でのコミュニケーションに、欠陥がモロに出ることがある。
以心伝心でほとんどのことが曖昧のままでも伝わっているだろうとタカをくくっていると、
互いに話はしているのにもかかわらず、真意がすれ違っていることがよくある。

最近、我家でもある会話が切っ掛けになって初めて気づかされたことがあった。
次の機会があれば、日本語の欠陥を意識的に埋めようと思っていた。

そんなとき相棒が「姉川温泉にいこうか」とツイッターでつぶやくように言ったのである。
姉川といえば、姉川の合戦で有名な古戦場である。
彦根からなら、車で40分ぐらいの距離になる。

「姉川って、温泉が出たの?」
「最近あたらしい施設ができたらしいのよ」
「いいね、いつか行こう」

と、いつもならこんな会話でなんとなく終わってしまっていた。
日本語の欠陥を意識していたわたしは、
「いいね、いつにする」と即座に問い返したのである。

相棒は、思いもかけない返事だったらしく、
すこしたじろいだ気配があり、なんとなく口ごもってしまった。

「次の金曜日にしようか?」
と、具体的な日を提案すると、ただ黙ってうなずいた。



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sceneryの風景

「インドア派」「アウトドア派」人間をふたつのタイプに分けたとすると、
わたしは典型的な「インドア派」である。

パソコン、音楽、読書、テレビ、それに文章を書いたり、
英語や将棋でさえ、インターネットを通じて相手が見つかる。
要するに一日中自分の部屋にこもっていても何の不自由も感じないのである。

でも、幸いなことに、機会さえあれば、外にでかけるのも嫌いではない。

今回の日常の風景は、姉川温泉のことを書くつもりで、書き始めた。
だが書いているうちに、横道に反れたので、
姉川温泉のことは、またいつか書こうと思う。

否、次の号で書こうと思う。



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