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            日常の風景   NO.0245
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凍える車内

土曜日、大阪に行くために、いつもの列車に乗ると、
通勤時間帯でもないのに、急に乗客が増えている。
理由はすぐにわかった。
JRが売り出しを始めた冬の青春18切符が使用できる季節なのだ。

青春18というネーミングは素敵だが、
車内に青春真っ只中という若者の姿はほとんど見られない。
乗客のほとんどは、全国的に有名な関西のおばさんグループである。

10代の若者以上にパワフルな50代から60代の、この世代。
ひとりでもやかましいのに、3人、4人のグループで、
その上、どこに出かけるのかは知らないが、旅に出かけるというので、
テンションが上がり切っている。車内は喧騒とした雰囲気だった。

わたしはかろうじて、ひとつだけ空いていた4人掛けの席に、
進行方向に背を向けるかたちで座った。
いつものように本を広げる。

慣れると、電車のなかというのは、まとまった時間が取れるうえに、
適度な振動、雑音は逆にわたしにとっては集中できる環境なのである。

いつものように、本の世界に溶け込んでいたのだが、
ふとふしぎな気配を感じて集中力が途切れた。
車内がいつの間にか、異様な静けさになっているのだ。

本から顔をあげて車内を見ると、
7、8人の自衛官が黒い制服と黒い帽子に身を包み
姿勢を正して、直立している。

金の記章のついた、つばの短い、中央部が平べったい制帽をかぶり、
首を支えるかのようによく糊のきいた、白く巾ひろいカラーの下は、
金のボタンがきらきらとひかっていた。

女性の自衛官も3人いた。かなりの美人に属する自衛官もいる。
車内での私語を禁止されているのか、たまに二言三言短い言葉を小声で交わすだけで、
余分な動作も、余分な言葉も全くない。
年齢がほとんど20代の前半に見えるので、ひょっとすれば防衛大学生なのだろうか。

振り返って後ろを見ると、後ろにも6人ほどの自衛官が直立していた。
ただ、若者が黙って立っているだけなのだが、威圧感のある異様な雰囲気に、
さすがのおばさんパワーも、なにかに気圧されたかのように鳴りをひそめ
窓の外を静かにじっと見ている。

わたしは、戦時中のことをを思い出した。
戦後生まれだから、戦時中のことは、映像や活字以外では知らないが、
集団としての日本人の性質はよく知っているつもりである。

ある種の環境とか状況とか雰囲気が持ち込まれると、
ほとんどの日本人はそれまでの日常の連続性が劇的に一変する。
だれに強制されたわけでもないので、ふしぎにも思わないが、
みんなの方向性が突然に変わるのである。

昭和天皇が亡くなった時、日本社会全体が異様な雰囲気になった、
あの10日間をわたしは一生忘れられないし、また忘れる気もない。

皇室がたまりかねてもとの日常に戻ってくださいと声をかけるまで、
社会のアウトローを売り物にしてツッパっていた、
10代の暴走族でさえ、市中に爆音を響かせることはなくなっていた。
存在感を示すのには絶好の機会だったのに・・・

経済以外の分野で、日本人が世界から確かな信頼を得られないのには、
立派な理由が存在するのだ。日本人のわたしでさえ、信頼できないのだから。



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sceneryの風景

今日はクリスマスイブ。
でも、年金生活者にとっては、それほど変化のある日常にもならない。

昔は近所の教会に出かけて行って、
年に一度だけ、キャンドルサービスやクリスマスキャロルを楽しんだものだが、
クリスチャンでもないわたしが、
まるでレストランにでもでかけるように、年に一度だけ顔を見せるというのも、
何となく気が引ける。

たぶん、これが年内最後の配信になると思います。
今年一年つきあっていただき、どうもありがとうございました。
メリークリスマスそしてハッピーニューイヤー。
いいお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします。



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