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            日常の風景   NO.0244
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小川の落葉

孫の颯が表で「おじいちゃん、大変、ちょっと来て」と大声で呼んでいる。
わたしはのんびりと寝転がってテレビを見ていたのだが、
孫の声があまりに緊迫しているので、いつもとは違い俊敏にからだが反応した。
怪我や事故でもあったのかと、どきどきした。

颯が「ちょっと来て、ちょっと見て」と連れて行ったところは、
自宅の横を流れている用水路だった。
凹の形にコンクリートで固められた用水路の底の部分に落葉が詰まり、
せき止められた水が両側にあふれ出しているのだ。

タイトルに小川と書いたのは、実はわたしのノスタルジーである。
わたしが子供のころは、幅は1メートルにも満たなかったが、
確かに小川と呼ばれるのにふさわしい川だった。

季節になると、アユが遡上し、フナなやドジョウ、ザリガニなどが
いっぱいいた。その他、うなぎなども網ですくった記憶がある。
夏になるとホタルがひかり、石垣の間からは、野生のセリが育った。

冷蔵庫がなかったので、小川が冷蔵庫の代わりになっていた。
スイカやモモ、真っ黄色のまくわなどが竹のざるに入れられて
小川の流れに漂っていた。

我が家はかなりの貧乏だったので、
そのような果物が常に口に入っていた訳ではない。
ごくたまの親戚の法事などのおさがり等があったときだけである。

わたしにとってはとてもなつかしい思い出であるが、
コンクリートで固められたこの用水路を見せて、このような話をしても、
もう孫はおろか、わたしの子供でさえ信じてもらえそうもない。

水量が極端にやせほそり、普段はブロック一個分ぐらいの通路に、
かろうじて水が流れているという程度で、
長期にわたって雨が降らないと、水路が枯れてしまうこともある。
上流の水源は湧水だから、流れる水は澄んでいて今でもきれいである。

さて、水路の落葉、孫の必死の訴えだから無視するわけにもいかないが、
今はモードが違うというのが、そのときのわたしの実感だった。
のんびり、はんなりモードが、すぐには春秋の一斉清掃のようなモードには切り替わらない。

モードさえ違えば、喜んで、落葉をすくい上げ、
戦利品のような高揚した気分のまま喜んでゴミ袋に収めたに違いない。

だが、そのときのわたしの行動は、物置小屋から柄の長い箒を持ち出してきて、
落葉を押し出すことだった。水をたっぷりと含んでいて意外に重い。
やがて落葉は航空母艦が岸壁を離れるように、ゆっくりとずるずるとかたまりのまま移動した。

押される水の勢いで、すこしスピードがついたように思ったが、
案の定、5メートルほど先でまた止まってしまった。隣の家の裏手である。

さすがにこれは気がひけたので、用水路に入り、再度、今度は丁寧にほぐす。
今度はうまくいった。10メートル先は直角に曲がったコーナーである。
この部分を心配したが、無事に通り抜けた。

もうわたしの目には一切何も見えない。
小川も順調に流れ出した。
この一部始終を好奇心に満ちた目で、しっかりと見ていた孫の颯。
祖父の安易な行動が、どうか孫の記憶にいつまでも残らないことを切に祈る。



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sceneryの風景

今日から神戸のルミナリエが公開されますが、
長島温泉の近くにある「なばなの里」のイルミネーションをご存知でしょうか?

150万個のイルミネーションが、絢爛豪華に来年の3月14日まで、
夜な夜な輝いています。

このあいだ天気のいい日を見計らって車で出かけました。
神戸のルミナリエよりは、会場もひろく、
イルミネーションにはさまざまな演出や変化があり、こちらもお勧めです。

当日わたしが撮った写真ですが、安物のデジカメでは、
夜景はなかなかうまく切り取れませんね。

http://www.imagegateway.net/p?p=FnBmBYfVxMW



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