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            日常の風景   NO.0248
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おじい痴漢

4歳になったばかりの、孫娘、優空(ゆら)の最近のくちぐせは、
「まっ、しょうがないか」である。
どこで覚えてきたのか知らないが、絶妙のタイミングでこの言葉を口にする。

6歳の兄とケンカして泣かされた後、言うこともあるし、
大人同士が、子供にはわからないような、むずかしい言葉で、
深刻で複雑な相談をしているときにも、ぽつんとつぶやいたりする。

優空の口から出ると、この言葉はまさにマジックワードである。
思わず微笑んでしまう。
人生のどんな問題でも、何とかなってしまうような不思議なパワーを持っている。

そんな優空が、最近ひらがなを覚え、すこしずつ書く練習もしている。
わたし自身は、読み書きは小学校に入学してから習ったように記憶している。
現代の子供たちは、なんとテンポの速いことであろう。

トータルで人生を考えれば、1年や2年、読み書きが早くできたところで、
さほどの意味はないのは確かだが、
世間の親の気持ちを考えれば、これも仕方がないことではある。

我家では、孫の誕生日にお祝いを渡すのが習慣になっている。
孫よりも親が喜ぶ、多少の現金を包んで持ってゆくのだが、
親の指示だろう、今年は優空からお礼の手紙が届いた。
手紙といっても、ほとんどが女の子らしい絵で占めらた絵手紙である。

ピンクの色鉛筆で描かれた、優空らしい女の子が中央にいる。
くるりとした丸い目には二、三本のまつ毛も表現され、
顔の半分ぐらいをUと一本の太い線で、口が大きく大胆に描かれている。

子供が描く線というのは、なんと愛らしくかわいい表現なのだろう。
単純な線のくちが確かに、女の子の喜びを見事に表現しているのである。

にぎやかな絵だった。
女の子を囲むように、チューリップの花が咲き乱れ、
花の周りをたくさんの蝶々が飛んでいる。

そして、
おじいちゃんへ
おばあちゃんへ
ありがとう
というメッセージが書かれていた。

わたしが、この手紙を受け取ったとき、思わず声をあげて笑ってしまった。
初めて気がついた事実だが、ひらがなの「や」と「か」はよく似ている。
文字を構成しているパーツがまったく同じなのである。

優空は、この手紙で、みごとに「や」と「か」を取り違えていた。
それも、おじいちゃんへの部分のみ、
「おじいちかんへ」とはっきりと書かれている。

「おじい痴漢へ」
日頃から、優空のお尻をなでなでしたり、
ほっぺたにチューをしたりしているから、そのように呼ばれても
「まっ、しょうがないか」である。



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sceneryの風景

身内以外で、この優空の絵手紙の実物に興味のあるひとはいないとは思いますが、
万一見たいという方がおられましたら、
わたしの文学仲間の掲示板に
http://8531.teacup.com/skamiga/bbs
写真をアップしておきましたのでご覧ください。


わたしが参加している宅老所のボランティアグループの活動日に、
ときどき優空がついてくる。

宅老所で優空は人気者である。
お年寄り用に準備されている、お菓子やくだものは、
食べきれないほどみんなからもらえるし、
どんなしぐさをしても、何を言っても、喜んでもらえる。

じっとただ座っているだけのお年寄りにのなかに、
自由闊達に幼児が跳ねまわっているという景色は、
自然でほんとうにいいものである。

お年寄りは、幼児を見ているだけで、癒されるし、
何かとストレスの多い現代の幼児は、
こんなにも必要とされ、愛され、甘やかせてもらえる世界があるということが、
なによりの情操教育なのではないかと思う。

「子供が返すべき親への恩は、子供が3歳までにすべて返している」という
文章を読んだことがあるが、わたしのふたりの孫を見ていると、
その言葉が実感として感じられることがある。

仕事がつらかったとき、確かにわたしも、自分の子供たちに慰められた記憶があるし、
もう子供たちに、こちらから何かを求める親の権利のようなものはないと考えたい。



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