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            日常の風景   NO.0249
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小豆島の花火

ホテルのバスに揺られて、会場の鹿島ビーチに到着すると、
海岸では、ちいさなログハウスがまるごと燃えているような大火が焚かれていた。
全くの偶然だった。小豆島への三泊四日の旅行期間中に、
冬の花火を見る機会に恵まれたのである。

たき火が放つ火の粉の舞いは花火への期待を盛り上げる。
火の回りは昼のように明るい。
集まってきたのは、ほとんどが観光客で、200人から300人ほど。
意外にというべきか、田舎にふさわしいというべきか、こじんまりとした集いである。

小豆島出身の歌手が歌うステージが用意され、
大きなスピーカーやドラムの金属部分が、炎のひかりに反射して揺らめいている。
幻想的なお祭り気分で盛り上っていたが、
イントロは厳粛な宗教的儀式から始まった。

昼間は遊歩道になっている木製のプロムナードに、厚い紫の座布団を敷き、
その上に、あたまを丸めた若いお坊さんが座った。
タイやベトナムでよく見かけるような黄色い袈裟に身を包んでいる。

お坊さんの前には、直径1メートル以上はあるだろう、大太鼓が備えられていた。
両手に持ったバチさばきも鮮やかに、お坊さんは強弱のリズムをつけて、
般若心経を朗々と唱えるのである。

「まーかーはんにゃーはーらーみーたー・・・」
ドンツクドンツク、ドンドンツク。
胸元に止められたマイクを通じて、冬の虚空に大音響が響き渡る。

般若心経と太鼓のリズムは、よくマッチする。
目の前には、木材を組み上げたたき火があり、周りに多くのひとが輪を作っている。
闇と火の光からだけでつくられた人々の表情には命の輝きだけが見られた。

虚飾、怠惰、いつわり、傲慢、過信、不信。
現代の文明が作り上げてきた一切の余分なものをはぎ取り、
純粋にプリミティブな感情にいざなわれる。

偶然、お坊さんが般若心経で一番有名な言葉
「しきそくぜーくーくーそくぜーしき(色即是空、空即是色)」と唱えたとき、
木材の木組みが燃え落ちて、夜空にぱっと大量の火花が舞い上がった。

その後、地元出身の歌手のコンサートがあり、
花火が始まるカウントダウンを会場の全員で取ったが、花火が上がらない。
司会をしていた歌手は、あせったように再度会場を盛り上げて、
一からやり直したが、それでも始まらない。

きまりが悪い、なんとも間の抜けた時間を過ごしたのち、
ようやくぱーんと一発の花火が上がった。
そしてまた、奇妙な間をおいて、次の花火がもう一発。

ようやく、花火職人のエンジンがかかったのか、
小型のスターマインが色鮮やかに華やかに夜空に炸裂した。

これでフィナーレだと思って、みんなが拍手をして、
再び、コンサートを始めようと若い歌手が前置きを話しているとき、
また、ポーンと一発の花火が上がり、そして最後のスターマイン。

進行は洗練されてはいないが、透明な空気のなか冬の花火は印象的である。
いとおしい。ひとつひとつが丁寧に感動できる。



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sceneryの風景

「三泊四日で冬の小豆島に家族旅行をする」と友人にいったら、
「小豆島?車で一周しても2、3時間しか、かからへん小っちゃい島やで、
いったい何するの?」と呆れられた。

最初はわたしも友人と同じような印象を持った。
小豆島というのは、ふたりの小さい子供をもつ息子夫婦のリクエストなのである。
多くの人で混雑する観光地は、気持が休まらないというのである。

息子のいうことにも一理ある。
この旅行は、年金生活で毎日のんびりと過ごさせてもらっている両親から、
厳しい冬の時代を、なんとか生き抜いている息子夫婦へのプレゼントのつもりである。

もう何度も、息子夫婦の家族と一緒に旅行をしてきたので、
我家の旅のスタイルがなんとなく決まってきた。
目的地の宿泊施設だけを予約しておいて、
後は互いの家族が、自由にそこを目指すのである。

出発する時間も違うし、途中で立ち寄る観光地や、ドライブのペースも全く違う。
こんなスタイルが、世代が違い、好みも違い、時間の使い方もまったく違う、
いわば異次元に住んでいる、世代の違う家族が、仲良く旅ができるコツかもしれない。

小豆島では、多分贅沢な退屈をするのだろうと、本も2冊携えていったのだが、
一ページも本を紐解く時間はなかった。

小豆島の観光は「寒霞渓」や「二十四の瞳の分教場」だけではない。
意外に文学関連の施設が多いのである。
今回は尾崎放哉記念館や壷井栄文学館などを時間をかけてゆっくりと見た。

醤油記念館などもユニークでおもしろかった。
別に有名なところでなくても、とにかく、現地にさえ行けば、
行くところはいくらでも見つかるし、新たな興味も湧いてくるというのが、
今回の旅行の印象だった。



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