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            日常の風景   NO.0263
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ほどよい贅沢

個人的な印象であるが、能登半島の和倉温泉には、
北陸の他の温泉地と比較して、全体的にかなり高級感があるように思える。
わたしたちが予約したAホテルのエントランスも見事なつくりだった。

唐傘の骨組をイメージさせる円錐形で開放的な巨大な覆い。
直径を測れば50メートルはありそうである。
傘のまわりには、ホテルにふさわしいテーブルや椅子が調度され、
七尾湾の眺望がぐるりと180度の角度で見渡せる。

エントランスの地下は土産売り場になっているが、
このホテルのすごいところは、ロビーから地下の土産売り場が
見通せるように設計されているところである。

傘の真下のフロアーは、渡り廊下のような感じで構成され、
フロアーの4ヶ所に大きな空間があり、
地下を含めての吹き抜けというコンセプトで出来上がっている。

露天風呂からの眺めも悪くなかった。
温泉のお湯は、反射してくる陽の光を四方に撒き散らしている。
その上に湯船の石垣があり、その上に植え込みの緑があり、
その上に七尾湾の海があり、その上に対面の能登島があり、
その上に真っ青な真夏の青空がある。五層の露天風呂。

人の欲望というは底の知れない不思議なものである。
息子の家族、わたしの相棒とこれ以上ない贅沢な時間を過ごしながら、
宿泊したホテルの特典として、和倉温泉でいちばん高級な加賀屋の
温泉も利用できるチケットが入っていると、覗いてみたくなるのである。

ホテルの送迎バスに送られて加賀屋に着くと、
加賀屋から、どっと宿泊客が出てきた。
近くで和倉温泉の夏祭りが行われると聞いていたし、
それらしい赤い提灯やのぼりがいい雰囲気を醸している。

贅沢この上ない加賀屋に宿泊しながら、うだるような暑さの中、
田舎の夏祭りを見に行くという時間の使い方が、
わたしにはよくわからない。

噂の加賀屋はホテル全体がひとつの街のようだった。
通路の左右に華やかな銘店が林立している。
贅沢な照明に快適な温度。そぞろ歩く浴衣姿の宿泊客。

孫を連れて、早速温泉に行く。
露天風呂はもちろん、サウナから、水風呂まで
いろいろな種類の浴室が3階に分かれてしつらえられている。
そのため浴室のなかにエレベータがあるのである。

ここまで贅沢だとわたしは落ち着けなかった。
露天風呂に入っていても、七尾湾の夜景をゆっくりと楽しむ心境にはなれず、
どこかにアセリのようなものが常にあった。
ここよりはもっといい場所があるのではないかという抑えようのないアセリである。

大人のわたしでさえ、この状態であるから、
興奮した孫の落ち着きのなさはわたし以上で、
すぐにわたしの回りからいなくなって、どこかに行ってしまう。
そのたびに、裸のわたしは、エレベータにのって1階から3階までを探し回ったのである。

庶民レベルが楽しめる、身の丈に合った、
ほどよい贅沢のレベルというのは、間違いなく存在するんだなと思った。



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sceneryの風景

定年退職後は平日で、普通のサラリーマンがあまり行けない季節に
旅をしようと決めていた。
観光地などが空いているうえ、ホテルなどが圧倒的に安いからである。

ところが例年通り息子の家族といっしょに旅行をしようと計画していて、
そんな好条件にめぐまれた時期は、あっという間に過ぎてしまったのだと
気づかされた。

今年から、孫が小学生なのである。
息子も、徐々に会社での中堅になりつつあり、
若いときほど自由に休みが取れなくなってきている。

必然的に、一緒に旅行できる期間は、夏休みの週末に限定される。
混んでいて、料金が高く、その上猛暑で決して恵まれた季節とはいえない。
ヤレヤレである。

中古だが息子が今年購入した8人乗りのワンボックスカーに乗り、
金沢に一泊、それから能登半島をぐるりとまわり和倉温泉に一泊。

6歳の颯と4歳の優空。
ふたりの孫は日頃よくケンカもしているのだが、
狭い車のシートに並んで長時間座ると、孫同士の会話が途切れることなく続く。

孫の相手は孫、年寄りの相手は年寄りに限ると思った。



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