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            日常の風景   NO.0289
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50周年同窓会

午後3時からの受付時間が過ぎると同窓生が次々と集まってきた。
ある会社の宿泊施設であるこの会場は、今夜はわたしたちの借り切りである。
遠くはカナダのリッチモンド市から、震災で被害を受けた仙台市から、
東京から、藤沢市から中学時代の同窓生たちが続々と到着する。

宿泊施設のロビーに置いてある椅子やテーブルには、
たちまち旧交を温める人垣で混雑した。

もうすぐ中学卒業以来50年になるので大々的な同窓会にしようと、
わたしたち彦根の地元で準備会が立ち上がったのが約2年前である。
結局、一泊二日で宿泊施設を借り切って行うことが決まった。

わたしたちは昭和20年に生まれた。終戦の年である。
ときどき冗談で「非国民の子」と言われた。
確かに産まれてきたのが不思議なような時期ではある。

戦前の産めよ増やせの時代から、戦後のベビーブームに至るエポックの時代で
わたしたちのクラスだけが極端に少なかった。
だから昭和20年生まれには、ある種共通のキャラクターが形成されたように思える。

競争がほとんどなかったので、のんびりとした性格の人が多い。
困難に当たっても何とかなるさと人生を楽天的に考える傾向がある。
事実、時代にも助けられたが、今までは何とかなってきた。

傑出して何かに秀でている人は少ない代わりに、
勉強はそっちのけでみんなとよく遊んだので、仲間意識が強く、友情に厚い。

今回が初めての出席だというひとも何人かいた。
向こうはよく覚えていて、親しそうに挨拶をしてくれるのだが、
一瞬、思い出せない、誰かよくわからない。当惑してしまうというようなシーンも
当然ながらわたしも含めてあちこちで見かけた。

50年ぶりということは、わたしの記憶の引き出しには子供時代の彼女だけがあり、
突然おばあさんに変身して目の前に現れたわけで、
記憶との照合にミスマッチが生じるのは致し方ない。

戸惑っているわたしの表情を見て取って、スマートな彼女は、
中学時代の写真を貼りつけた名札をわたしに見せて、
「Mでございます」と丁寧に挨拶をしてくれた。

「ああ、Mさん」名前を聞いた途端、
タイムカプセルのカプセルが一瞬で氷解したかのような勢いですべてを思い出した。
小学校1年生のときから、隣通しの同じ机で勉強していた日々のことを。

ただ、ひとりだけ完璧に思い出せない男の人がいた。
いくら忘れたとは言っても同窓生である、どこかに何かの片鱗ぐらいは記憶にあるはずである。
何とか思い出そうと記憶の引き出しをあちこち引っ張ってみたが、どうしてもダメ。

しかたなく隣にいたクラスメートに「あの人だれやった?」と聞くと、
彼も苦悶の表情を浮かべて思い出せない。
ついに彼が立ち上がって調べてきてくれた。
判明した事実は、わたしたちの記念写真を撮りに来てくれた写真屋さんだった。



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sceneryの風景

もし、全国で同窓会のHPコンテストがあったとすれば、
わたしたちの同窓会のHPは間違いなくベスト5には入ると思っている。

HPの管理者であるK君の献身的な労作である。
時間があればぜひご覧ください。今回の同窓会の詳細な様子もアップされています。

http://www.kyouno.com/hikonenishichu1961/

今回わたしが驚いたのは、運動部の主要メンバーは50年たった今でも、
試合の経過を生き生きと昨日のことのように覚えていたことである。

「誰それに2回パスをしたのに、バーに当たってしまった。
それも2回も。あんなことなら、直接俺がシュートすればよかった」
などと話は尽きない。

運動神経のいい運動部の連中はうらやましかったが、
50年間も詳細に覚えている様子は、シュートに失敗した選手は大変だと思う。
多分華やかな甲子園の野球の影にも、予選の試合も含めて
このような消えない記憶が山ほど折り重なっているのだろう。

2次会のカラオケが終わり、泊まる部屋の3階のロビーでまだ3次会。
眠ったのがもう1時を回っていた。
あくる日は声も枯れ果てていた。

幹事が十数人、2カ月に一回の準備会は楽しかった。
ほとんが生ビールを飲みながらの昼食会。事実上のミニ同窓会だった。
2年前の同窓会から数えて故人がふたりも増えた。そんな年なのである。

葉書での欠席の理由も、本人や配偶者の体調不良。親の介護などが多い。
でも、ほんとうの理由を正直に書けない人もいたのかもしれない。
50周年同窓会に出席できた同窓生は多分恵まれた同窓生なのだろう。



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発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

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日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

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