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            日常の風景   NO.0297
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ラストラン

いつものように大阪駅に降りて驚いた。
対面の、プラットホームが黒山の人々でごった返している。
乗降客の集団ではないのはすぐに分かった。
ほとんどの人がカメラを手にし争うように列車を写しているのである。

そういえば今朝のニュースでJRの時刻表が変わり、
今日限りで廃止される列車があるとアナウンサーが言っていた。
その列車のラストランを見に来た人々であろう。

列車にさほどの興味がないわたしにはこの混雑に何か違和感を感じていた。
これも最近のニュースで見たのだが神戸駅前の百貨店が廃止されると聞いて
涙ぐんでいる人に似ているとふと思った。

普段はほとんどその百貨店では買い物をしない人が、
マイクを向けられ、感想を聞かれると淋しいと涙ぐんでいるのである。

時代が変わり、あたらしいものに入れ替わってゆくのは
当然だし、そんなに悪い話ではない。
社会の新陳代謝が順調にいっている証拠でもある。

わたしが子供時代に走っていたSL列車などもそうである。
列車には冷房もなくうす暗い車内で堅い椅子に座らされていたのを思い出す。
それでも旅そのものは楽しかったから、目を輝かせて窓の外を見ていたのだが、
夏などは窓を開けないと暑くてたまらなかった。

そんなSL列車がトンネルに入る直前になると、
乗客みんなが手分けして窓をあわてて閉めるのである。
でも必ず間に合わない窓があって乗客の顔は石炭のすすで黒ずんでいた。
石炭の匂いもあまりいい匂いではなく沿線は煙とすすのせいで常時薄汚れていた。

確かにある種のノスタルジーは感じるし、
短い距離の観光SL列車としてなら、たまには乗ってもいいかなとは思うが、
あの列車を本格的に再び走らせるわけには行かないのである。

電車のラストランをこんなに大騒ぎして見送るのは間違いだと思う。
燃え尽きた火が自然に消えるのを待つように静かに
「ごくろうさまでした」と最後を見守るべきなのではないだろうか。

ラントランを迎えるまでに、
もっとこの列車での旅を楽しんでおくべきではなかったのだろうか。

考えてみれば、わたしの年齢はもう人生のラストランそのものである。
もしほんとうのラストランになるときは大騒ぎしてほしくない。
家族だけで静かなときをすごしていたい。

大騒ぎするのは元気なときである。
元気なときを無為に過ごさないで、家族や友人といっぱい旅をして飲んで話して、
共通の想い出を胸にしたまま静謐なラストランを迎えたいものである。



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宅老所のボランティアをしてもう5年になる。
宅老所のユーザーさんの平均年齢は80歳を超えている。
90歳を超えている人もかなりいる。

もちろん、この5年間には亡くなった人もいるし、
認知症が進んで施設に入った人もいる。

この宅老所のポリシーも「元気なうちに」である。
元気なうちにいっぱい話し、歌い、笑い、飲んで、食べて、
「今を生きる」という姿勢でボランティアスタッフを続けている。

ユーザさんがラストステージの状況を迎えれば、
病院とか施設に直接お見舞いに行くことはない。
それがほんとうの思いやりである。遠くから静かに見守るだけでいいと思う。
もしわたしが逆の立場になったとしてもそうして欲しい。



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