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            日常の風景   NO.0293
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西浦温泉の星

楽しみにしていた温泉旅行の当日である。
予定の時間よりやや早く、ピンポンと玄関のチャイムが鳴ったので、
ドアを開けると、高校時代からの仲間のにこやかな顔が見えた。

ただ、わたしの家に迎えに来る予定になっていた車と車種が違う。
伊吹山のふもとに住む仲間のひとりが、
がっしりとした四輪駆動の車の運転席に座っている。

4人がこれから行こうとしている三河湾沿いの西浦温泉。
彦根から出発すれば、伊吹町はその途中に位置しているので、
彦根から伊吹町まで行って、彼の家で合流する予定になっていたのである。

ところが今日と明日、天気予報によれば滋賀県の湖北地方は大雪模様だった。
雪に慣れていないわたしたちを気遣って、彼は何十キロも逆方向に走り、
彦根までわたしたちを迎えに来てくれたのだ。

彼が持って生まれた徳性は、わたしのそれとはかなり質が違う。
いかに親しい仲間のためとはいえ、このような献身的なアクションはとても真似ができない。
彼は定年退職後も民生委員、老人会の会長、区の副会長などの役職を黙々とこなしている。

悪いとは思いつつも酒飲みばかりの仲間は、
彼に甘えて運転手の役をついつい押しつけてしまうのである。
この紙面を借りて、あらためて感謝の意を伝えたいと思います。
「F君どうもありがとう」

今回の宿は規模も大きいしかなりグレードの高い宿だった。
6階にある続きの10畳と16畳の広々とした和室からは、三河湾が一望できる。
暖房を入れなくても、陽光が部屋いっぱいに射し込み春のようにぽかぽかと温かい。

缶ビールと簡単なつまみですぐに宴会が始まった。
一度みんなで4階の温泉に浸かりに行ったが、部屋に帰るとまた、宴会、おしゃべり。
仲間と旅をすると話し好きなのは女の専売特許ではないというのを実感する。

夕食後、今度は旧館の一階にある露天風呂に行く。
設備は古いが趣がある。多分もともと旅館はここから始まったのに違いない。
一階だから太平洋の波が目の前にあり、押しては返す波のリズムがなんともいえず心地よい。

まったりとしたお湯に、お酒に、楽しい会話に、
そのまま温泉に溶け込んでしまいそうなほどに解きほぐされている。

中部国際空港が近いので湯煙のなかを飛行機がひかりを点滅させながらゆっくりと渡ってゆく。
湯煙ではっきりとは見えないが、夜空にオリオン座が輝いているのがぼんやりとわかる。
オリオン座の下に明るく光っている星は多分木星だ。

オリオン座といえば、この間NHKの番組コズミックフロントで、
四角い4つ星の左上の赤い星「ベテルギウス」が
間もなく超新星爆発をするかもしれないと説明していた。

爆発が起これば「ベテルギウス」は満月のおよそ100倍のまぶしさで輝き、
その様子は昼間でも見えるという。大天体ショーになる筈である。
ただし宇宙時間による間もなくは明日かもしれないし、1000年後かもしれない。

宇宙に想いを馳せていると風の具合だろう、突然湯煙がすきっとなくなり、
冬の透明度の高い空気を通してオリオン座全体がその姿をみせた。

まるでビッグバンからおよそ38万年後に起こったとされる
宇宙の晴れあがり現象のような気がした。

わたしが生きているうちに「ベテルギウス」の超新星爆発、ぜひ見てみたいものである。



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sceneryの風景

遊ぶことだけにはつらつとしていた高校時代の仲間も、
もうほぼ全員が定年を迎え、年金で生活をしている。

仲間と当時の想い出を話していると、あれからそれぞれにいろいろあって
こんなにも多くの時間が経過したのが正直信じられない。

高校時代に学んだことは、ほとんど社会で間に合うことはなかったが、
友人はいっぱいできた。
男子ばかりの工業高校で、1年生から3年生までクラス替えをしないのが
当時の母校のポリシーだった。

この教育方針は、今の湿ったじめじめした社会状況なら問題になるのかもしれない。
多分わたしたちは時代にも恵まれていたのだろう。
勉強ができてもできなくても、体力があってもなくても、
性格が明るくても暗くても、からりとしたオープンで風通しのいい時代だった。



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