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            日常の風景   NO.0294
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大阪駅のトイレ

Just in case というわたし愛用のフレイズがある。
日本語に直訳すれば、万一に備えてということであるが、
「念のために」というカジュアルな日本語がぴったりと当てはまる。

最近は列車に乗るときは、最前列か最後尾がほとんどである。
理由はただひとつ、トイレのある車輌だからである。
滅多に利用することはないが、まさにジャスト・イン・ケイスなのである。

もちろん若いころはそんなことを意識することはなかった。
加齢とともに、水道のパッキンが古くなってゆるむように、
関係する筋肉に締りがなくなってくる。時間に余裕がない。哀しいことである。

大阪駅に着き、列車を降りると改札口近くのトイレに行くのが、
習慣になっていた。尿意があってもなくてもとりあえず済ませておくのである。

ところが今日は愛用しているトイレの入口が白いプレートに覆われていた。
簡単なポスターであたらしいトイレの位置が示されていた。
「もう」と思いながらも、仕方なく歩いてきた構内を戻る。
この2、3年大阪駅は必ずどこかで工事をしている。

9番のプラットホームの階段を降りたところに、
あたらしいトイレが設置されていた。
どんな場所であれ、あたらしい空間は明るくて気分がよい。

ただ非常に気になることがあった。
「右側が男性トイレでございます」
「左側が女性トイレでございます」
と、女性の声の案内がエンドレスで続いているのである。

トイレを出てから、あたらしいトイレの入り口をじっくりと観察した。
入口には世界共通の女性、男性のシンボルマークが貼ってある。
タイルでもピンクとブルーに色分けされている。

わたしの頭にはひとつのイメージが浮かんできた。
この女性の案内にふさわしいトイレのイメージである。

それは駅の構内にある真っ白で、誰にも訳のわからないミステリアスな施設。
だだ入り口のようなものがふたつぽかんと開いている、
まるでモダンアートのような超シュルレアリズムな作品。

一体だれが最新のトイレに、こんなくだらない騒音装置を提案をしたのだろうか。
普通のセンスに照らして、だれも諌めるものはなかったのだろうか?
不思議である。

わたしが大好きだった落語家、桂枝雀の口癖が突如頭のなかで甦った。
「親切が過ぎますね」



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sceneryの風景

昔、友人に彦根城を案内していたときのことである。
具体的な詳細は忘れたが、彦根市が当然管理しなくてはならないことが、
長い間放置されたままになっていた。

多分観光客が見ても、なんだこれはという欠陥だったのだと思う。
友人にその現場を見せながら、役所のことを軽くぼやいていた。

わたしのぼやきを聞いた友人は、突如内ポケットから手帳を取り出し、
書きとめ「明日彦根市に電話して見る」と言ったのである。
彦根市からは遠く離れた県外の友人だった。

「へえっ」と思った。すごいやつだとも思った。
具体的に世の中を変えてゆくというはこういうことなのだとも思った。
彼に触発されて、新聞の読者欄に投稿するようになった。
2、3回採用もされたが、続かなかった。
ずいぶん若いころの話である。

今回のトイレの話も、メルマガに書くエネルギーを
ほんとうは大阪駅長に抗議の手紙でも書いた方がいいとはわかっているのだが・・・

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以上でほんとうは終わるつもりだった。
最後の推敲をしているうちに、なにも形式にこだわることはない。
このメルマガをそのままプリントアウトして
JR大阪駅長様として送ればいいのだと思った。
まだ、わたしにもそのぐらいのエネルギーは残っているし、そうするつもりである。



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