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            日常の風景   NO.0284
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夏のプラットホーム

真夏の午後、大阪駅環状線のプラットホームは
全体がまるでサウナ風呂に入っているような熱気に包まれる。

東側に位置しているプラットホームは、朝からの強い日差しを一杯に受け、
巨大なコンクリートの塊は、太陽エネルギーを充分にたくわえている。
岩盤浴とそっくりな熱気が絶えず足元からゆらゆらと立ち昇ってくる。

この熱、何か発電にでも利用できないものだろうかと、
詰まらないことを考えている。
電車を待つ間、ただひたすら我慢するより方法はない。
慣れることは決してないのである。

大阪地下街の照明の暗さにはすぐに慣れた。
節電のため、地下街の蛍光灯が場所によっては半分しか点灯されていない。
初日こそ、おっ暗いと感じたが、最近では落ち着いた適当なひかりに感じられる。
いままでが明るすぎたのである。

ヨーロッパなどに旅をすると、夜の暗さに最初は驚かされるが、
そのうち慣れてくる。
必要なところ以外は、余分なけばけばしい明りは灯さないという姿勢が、
落ち着いて洗練された文化に思えてくる。

だがプラットホームの暑さは、文化とは関係がない。
自然現象なので、世界各国さまざまであろう。

熱気に当てられてほとほと待ちくたびれているわたしの前に、
わたしには関係のない関西空港行きの新快速電車が停止する。

この状況は悲惨というか悲劇と形容すべきか、
プラットホームの熱気に加えて、電車からの排気熱が遠慮なく撒き散らされる。
しかもそのまましばらく停車しているのである。

窓の向こうで、涼しそうな快適そうな電車の乗客が心底憎たらしくなってくる。
思わず「あっちへ行け、早く消えてしまえ」と大声を出す。心の中で。

やっと待ちかねた明るい朱色の電車が入ってきた。
日中の環状線はそれほど混んでいない。
電車に乗った途端、天国のような清涼感が味わえる。

冷房のよく利いた電車に乗って窓を外を見ると、気の毒なほど汗を流し、
ハンケチで顔を拭っている多くの人が見えた。
たった今まで、わたしも同じ立場にいたのに、自分が快適になると、
電車の排熱による迷惑も、プラットホームの熱気もほとんど忘れている。

震災も原発もかなり忘れつつあるわたし・・・



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sceneryの風景

3年ほど前に「日常の風景」を一冊の本にした。
そのときに編集から製本まで一切を手伝ってくれた友人の作家。
送り仮名から、漢字の統一性まで一字一句に徹底的にこだわった、
その丁寧で慎重な編集姿勢にはほとほと感嘆してしまった。

プロフェッショナルとアマチュアの差を感じざるを得なかった。

今回知人の新聞記者から、前号のsceneryの風景に乗せた文章の
訂正の訂正がメールで来ましたので、再度アップします。

訂正はこの部分である。
司馬遼太郎(元毎日記者=同「竜馬がゆく」)
実はわたしもすぐに気が付いていた。
でも、あれっ産経新聞から毎日新聞にも席を置いたことがあったのかな?
程度の疑問で終わって確認などはしなかった。

小説家や詩人だけではなく新聞記者も文章をなりわいにしている。
文章のプロの文章におけるこだわりというものを
改めて感じされられました。


訂正の訂正

司馬遼太郎さんに鮮やかな思い出がある。
司馬さん最晩年の頃で、姫路市文学賞の審査についての話を聞いた折だったと思うのだが、
取材の内容や場所は、手元に記事がない今、定かでない。

私の聞きたい話が一段落した後、
司馬さんは私の名刺を手にやや俯いて暫く何事か考えておられる様子。
そして、急に「前に伊賀上野に居られましたね」とこちらをまっすぐに見た。

「芭蕉と近江商人の本のあとがきで、私とあなたの名前が並んでいましたね」。
ハスキーな声と押し出すような口調がはっきりと記憶に残っている。

本は、東北の郷土史家・小野亀八郎さんが白河市長退任後に出版された、
松尾芭蕉研究の小冊子「不易流行との出会い」のこと。
芭蕉が近江商人に商いの秘訣を説いたとの大胆な持論を検証、
小野さんが芭蕉ゆかりの各地を訪ね歩く内容。

中には、伊賀を担当していた私と小野さんとの交流や私が差し上げた年賀状、
そして、小野さんの疑問に答える司馬さんの葉書も紹介されていた。

司馬さんのご記憶通り、あとがきで司馬さんと並び、私にも謝辞を戴いている。
社は違うものの、新聞記者の大先輩であり、文化勲章受章者であり、
何よりも私が大好きな国民的作家に、そのことを記憶してもらっていたことが誇らしく、
照れくさく、そんな複雑な感激が十五年以上を経た今も鮮明だ。

さて、「日常の風景」に紹介してもらったメールで、
私は司馬さんを元毎日記者にしてしまっている。広く知られているが、
司馬さんは産経新聞OB。

間違うはずのない大間違いで、アップされた日常の風景を見てひっくり返った。
メール送信前の元原稿では、井上靖さん、山崎豊子さんの毎日新聞出身作家も書いていたのだが、
くどくなるので削った。

この際の削りミスで、司馬さんが毎日記者になった。
言い訳をすれば、送信時は私信のつもりだったので、
確認時、誤りを読み飛ばした。

さらに、風景さんから引用の了解を求められた際も再確認を怠った。
かくして、世にも珍しい訂正の訂正を送信する次第。
お詫びし、以上の顛末を報告します。



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発行者 scenery
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