*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0290
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

蘭奢待

見出の「らんじゃたい」という漢字から、これは正倉院の宝物であると
すぐにピンと来た人は、かなりの歴史好きだと思う。

この蘭奢待という漢字のなかに、東大寺という文字が隠れているということを
知っていた人は、古代の歴史にかなり造詣の深い人かもしれない。

相棒とそのうち「正倉院展」に行こうという話は何となく出ていたのだが、
日時が未定のまったくムードだけの計画だった。
相棒が朝食の後、週間天気予報を見て「行くとすれば今日しかないね」とつぶやいた。

そのつぶやきを耳にした途端、卑弥呼のお告げのように事態が急に動きだした。
日頃から日常におけるハプニング、変化、意外性を意識的に掴みたいと思っている。
一時間後にはふたりはもうJRの電車に乗っていた。

彦根から奈良。遠いように感じられるがJRの新快速を利用すれば、
わずか2時間の旅にしか過ぎない。
行動を起こせば意外と近い距離なのである。

奈良駅はかなりの観光客で混雑していた。
駅には「正倉院展」の案内をあちこちで見かけたが
「現在入場まで70分待ち」と案内板に書いてある。

「正倉院展」がこんなにも人気のある展覧会だとは全く意外だった。
さすがに70分も列に並ぶ気はしない。時間をずらすことにした。

ならまちや興福寺のあたりををぶらぶらと散策し昼食にはビールもいただいて
時間をつぶしながら、会場である奈良国立博物館に着いた。
それでも入場するのに30分待った。

「正倉院展」は美術館に絵画や彫刻を見に行くのとはすこし違う。
いわば日本の歴史を見に行くのである。

校倉造りの当時とすれば理想的な環境で保管された宝物とはいえ、
モノである限り1300年という時間にさらされれば、
色は褪せ、腐食し、形が崩れてゆくのはある程度しかたがない。

歴史を知らない外国人がこれらの宝物を見て、
たとえば色あせたよれよれの布切れを見て、これのどこが宝物という感じだと思う。

日本人は正倉院には、ある種の歴史的郷愁を感じるのである。
中国ほどではないにしろ、日本にも長い歴史がある。
その歴史を国民が共有している。
残された歴史からいろいろなことが学べる幸せな国だと思う。

美術品とはとても思えない宝物を見るために、これだけ多くの人でにぎわう。
ローマ、イスタンブール、長安などからの宝物も多い。
色は褪せていても、シルクロードの息吹が今でも感じ取れる。

蘭奢待は会場の中央にあった。中学生のとき社会科で学習した宝物である。
意外に大きなモノである。156cm、重さは11.6kgもある。
いかに名香木とはいえ、歴史的な背景がなければ薄汚れたタダの木の根っこにすぎない。

蘭奢待の中央が織田信長によって10cmほどスパッと切り取られている。
いかに有名だとはいえ、蘭奢待は香木である。
よく考えてみれば香木は火にくべ、香りをかがなければ流木と同じ粗末な木にすぎない。

織田信長に切り取られた香木の白い肌が、彼の近代合理的な精神を雄弁に物語っていた。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

正倉院展はオリジナルよりレプリカの方が輝いていた。
当時のデザイン、色などを現代の職人が丹精込めて再生しているのである。
これは見事だと思った。

売店で販売している再現されたレプリカも、華やかで見事だった。
東大寺の正倉院に奉納された当時は、宝物にふさわしく、
エキゾチックで鮮やかなものであっただろうことが想像される。

1300年も前のものなのに、デザイン、色彩。
どれをとっても、現代に通用する工芸品であったのは間違いがない。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/
『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------