*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0306
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

舟を編む

わたしたちの文学仲間のBBSで最近日本語がホットな話題になっている。
もともと言葉にはこだわりと思い入れが強い仲間のつどいなので、
当然と言えば当然なのである。

きっかけはわたしが手にした一冊の漫画からだった。
「日本人の知らない日本語」というタイトルで、
外国人に日本語を教える講師の漫画エッセイだった。

実におもしろい内容だった。
たとえば数助詞の話題。数助詞とは
モノを数える単位で、一個とか一本とか一枚とかいうやつ。
英語とかドイツ語には数助詞はありません。

一本、二本、三本という数え方も
一本 いっぽん
二本 にほん
三本 さんぼん
ぽん、ほん、ぼんと変化していますし、
四本は しほん といったり、 よんほん といったり
七本も ひちほん といったり ななほん といったり
八本なら はちほん でもいいし はっぽん でも正しいとか。

国名である日本でさえ「にほん」もあれば「にっぽん」もある。
とにかく明確なルールも法則もなく、ひたすらに覚えるよりしかたがない。
このあいまいさが日本語の最大の特徴になっている。

こんな話題で盛り上がっているときに彦根図書館から連絡があった。
予約しておいた三浦しをんの「舟を編む」の順番がやっと回ってきたのである。
半年以上は待った。

この小説、日本語の辞書を作って行く過程が舞台。
執筆者や編集者や出版社の辞書に対する熱意が過不足なく描写されている。

作者三浦しをんの日本語に対する愛情はとても深いもので、
小説の舞台を辞書の制作現場においたのはとてもいいセンスだと思う。
繊細な言葉に対する思いが文章からほのぼのと伝わってくる。

たとえば「あがる」と「のぼる」の違いに考察する場面がある。
「あがってお茶でも飲んでいって」とは言うが、
「のぼってお茶でも飲んでいって」とは言わない。
「山にのぼる」とはいうが、
「山にあがる」とはいわない。
「あがる」は上方へ移動して到達した場所自体に重点がおかれているのに
「のぼる」は上方に移動する過程に重点がおかれているからである。

でも、珠玉のことばがあちこちにちりばめられているのに、
上質なエンターテイメントなのである。最後までおもしろく読めてしまう。
さすがは直木賞作家である。小説のコツを心憎いほどに心得ている。

小説のラストも通俗的でよく使われるパターンであるにもかかわらず、
思わず泣かされてしまった。

「日本人の知らない日本語」は150万部売れたといわれているし、
「舟を編む」もベストセラーで今も根強い人気がある。
このような良質な本が売れていると聞くのは嬉しい。
わたしからも一度は読んでみることをお勧めします。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

わたしたちのBBSに興味のある方は一度のぞいて見てください。
http://8236.teacup.com/scenery2/bbs

ずっと英語の勉強を続けてきて、一番よかったと思えるのは、
空気のような存在だった日本語が外国語という比較の対象ができたことにより、
客観的に見られるようになったことだと思います。

英語カフェなどに行きますと、
英会話を勉強するために、若い高校生や大学生がよく来ます。
わたしのような定年組でも、英語を通じて真剣なやりとりができます。
わたしにとって英語は最近では世代のギャップを克服する、
日本人同士のコミュニケーションツールでもあるのです。

言語がその国の人々の性格を決めてゆきます。
おなじ日本でも地域によって性格が違います。
地方の方言がその性格に大きな影響を与えているのです。

「おいどんは西郷隆盛でごわんど」とゆっくりと重厚にいう地方と、
「わいは坂本竜馬やきに、ちょっくらと行ってくるでよ」と早口でぽんぽんという地方とでは、
性格が大きく違って当然です。

最近の中国人の過激な反応を見て、中国語にも一因があるのではないかという気がしています。
学生時代に中国語もすこしかじったことがあります。
文法は英語やドイツ語以上に厳格。
山ほどある漢字にはたったひとつの読み方・発音しかありません。
日本語にように自在に融通は利かない言語なのです。

日本語は文学的な表現するには素晴らしい能力を発揮します。
ことばにひとつひとつにいろんな意味があって、ふくらみがあって、
想像力が読者それぞれに果てしなく広がります。

ですが逆に、議論や交渉、法律や契約などを語るには、
多くの抜け穴があるということです。

日本人はなんとか時間を稼いで、なんとなくうやむやにことを納めるのをよしとしますが、
中国人や中国語はそうではありません。
だれが総理大臣になっても当分、中国との関係はぎくしゃくしたままでしょうし、
両国とも計り知れない損失痛手を被ることでしょう。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/
『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------