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            日常の風景   NO.0319
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花火大会

毎年の彦根花火大会の会場の周辺では、湖岸道路の両側にびっしりと
露店がにぎわう。

会場となる浜辺に急ぐわたしたちなのだが、反対方向からも
カラフルな浴衣を着こんだ若い女性やカップルが歩いて来て、
行く人、戻ってくる人で道路はもう大変なひしめきになっている。

若者にすれば、花火などは付け足しで、
彼女とそぞろ歩く露店の雰囲気を味わうことこそが目的なのであろう。

会場を一直線にめざす年寄りにとっては、
横に避けたり、立ち止まったり、突き飛ばされたりして、
なかなか前には進めない。

「冥土に行くのにそんなに急がんでもええがな」
生命のエネルギーに溢れた若者が年寄りに渇を入れてくれている。
そんな風に思うことにした。
自分勝手な解釈ができるのも年寄りの特権である。

冥土への旅は正月の角松が有名な一里塚であるが、
毎年真夏のど真ん中で打ち上げられる花火が
わたしのとっての一里塚に思える。

英語ではマイルストーン。
両方とも計ったように同じ比喩で使用されている。

地味な角松とは違い、派手な音と色彩。
そして夜空に跡形もなく消えてしまうのが、
心の一里塚に相ふさわしく思えるのだ。

近所のスーパーマーケットでやきそばやお好み焼き、
お寿司つまみなどを買い込み、
保冷剤入りのギンギンに冷えたビールを携え、家内とふたり、
びわこ湖畔の現場で花火を楽しむのが毎年の恒例になっている。

安上がりでささやかな庶民の楽しみなのだが、
このささやかな楽しみをあたりまえに楽しめるのは、
実はあたりまえではないということが
最近心から実感できるようになっている。

この年になるとわたしたち家族だけのことだけではなく、
友人や知人の様々な人生を知ることになる。

家族の不和、介護、死別。定年のとまどい。
自分自身の体の変調、経済的な困窮など、
様々な困難がそれぞれの人生に確実に押し寄せてきている。

ド派手な1万発の花火とよく冷えたビールに酔いながら、
年寄りこそが「今を楽しむ」「刹那を大切にする」
そんな姿勢でいいのではないかとふと思った。



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sceneryの風景

花火は典型的な日本の文化、伝統だと思っていたが、
最近の花火の傾向は伝統の技術だけではなくなっている。

大会が始まる前に、カウントダウンの花火が打ち上げられる。
夜空に10、9、8と数字が花火で描かれてゆく。
7までは良かったが6、5、と失敗が続いた。

数字を描くのを失敗したのではない。
打ちあがったときの方向が横を向いたのである。
まだ完全ではないが打ち上げる火薬の方向を
コントロールする何らかの技術があるのだろう。

昔は大輪の菊の花のように、一発でどんとシンプルに開けばよかったが、
今は開いた花の先端でもう一仕事させないと、
「オー」というどよめきにはならない。

意外性を花火師も計算しているし、観客も求めている。
ただ単に開くだけの花火であっても、開くまでには、
前座のように小さな花火をばらまいてから、どんと開く。

伝統というよりも花火師の創作競争のようである。

音楽も導入されたが、これは大失敗だった。
コンピュータが音楽のリズムに合わせて打ち上げ時機を
コントロールしているようだが、
普段は遊泳客の迷子を呼び出すような拡声器を使用して
大音響の音楽を流すものだから、音が割れて、うるさくて、
頭が痛くなってきた。

来年からは考えて欲しい。
日本の花火は音楽やレザー光線で飾り立てなくても、
花火そのものが純粋に十分にうつくしいのだから。



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