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            日常の風景   NO.0312
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部屋からの雪

白いレースのカーテン越しに雪が舞っているのがちらちらと見えた。
気まぐれに雪景色でも楽しんでみようとカーテンを全開にした。
アルミサッシの枠がすべてむき出しになるぐらいに思い切って広く開けた。

雪の反射でわたしの部屋にまぶしいぐらいの光が差し込んだ。
昨夜から降り続いている雪で周りの景色は真っ白に染まっている。

2階にあるわたしの部屋は東側と西側とに窓がふたつあり、
陽あたりだけはとてもよい部屋である。
だが朝は朝陽がまぶしく、夕方は西日が強烈なため、
ほとんどは窓にカーテンが半分以上引かれたまま。全開することはまずない。

今も降り続く雪。隣家の屋根や庭の松の木に積った雪。
全開された窓は窓枠が額縁のような効果を醸し新鮮な風景に見える。
まるで一幅の名画を見ているような雰囲気になる。

絵画は人が描くので描きたいものだけが表現できる。
写真も高級な一眼レフカメラがとらえる作品は、
まわりをぼやけさせて、モチーフだけをフォーカスで絞り込める。

雪景色というのはそのような効果を自然が、自然に与えてくれる。
背景の空はただ灰色のモノクローム。
雪が細々としたすべてのものを覆い隠していまうので、
たとえば今なら松の木を移動する2羽の雀だけに焦点が絞られる。

こんな雪のなかでエサを探すのだけでも大変だろうに、
2羽の雀は楽しく遊び戯れている。

一羽が松の木からほぼ垂直に枝を離れると、
もう一羽も同じようにまっすぐに上がった。
そうすると今度は最初の一羽が同じような軌跡で枝に戻る。
交互にこのような飛翔が繰り返される。

求愛をしているのか、じゃれ合っているのか。
それとも高度な飛翔技術を自慢しあっているのか。
とにかく厳しい環境のなかでも必死さはなく遊びの余裕が見られるのが素敵だ。

雪はまだまだ降り続く。斜めに、真っ直ぐに。
ときには下に落ちるばかりではなく上に舞い上がったり。
ふわふわといつまでも空中に漂っている雪片もある。

わたしはエアコンで部屋の温度を適度に保ちながら、
こたつに入り雪を見ながらニューミュージックを聞く。
オーディオセットはかなり旧式のもので、
今はほとんど使われていないMDとCDを3枚づつ連続して聴くことができる。

スイッチを押せばいつでも、
谷村新司、五輪真弓、松山千春、吉田拓郎、小椋桂、南こうせつなどの
なつかしい歌手、還暦を過ぎた今の声ではなく、
全盛期の若い伸びのある美声が、わたしをノスタルジーの世界に誘う。

男女の移ろいやすい危うい妖しい愛の歌をききながら、
雪景色を楽しむ。
その気になれば慣れ親しんだ自分の部屋にもまだまだ発見がある。
こんな朝は嬉しい。



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sceneryの風景

雪の朝ほどもうリタイアしてしまった我が身を幸運に思うことはない。
現役のときは雪の情報に敏感だった。
朝早く起きて吹雪の中で車の雪を落とし、
雪かきをしてから出勤したことが何度もある。

生活に関係なければ、雪は悪くない。
温泉に浸かりながら露天風呂から見る雪。

分厚いガラスに保護された内湯に入りながら見る冬の荒れた日本海。
たまにバシャと吹き飛んでくる波に驚きながらも、
内と外との落差が大きければ大きいほど楽しく嬉しく感じられる。

2階にあるわたしの部屋は、2階では一番いい場所にある。
陽あたりはいいし東の窓からは彦根城も見ることができる。
夜に部屋のライトをすべて消してから
ライトアップされた彦根城をたまに眺めるのも格別だとわたしは思っている。

いい部屋を当然のごとくにわたしが占有することができた。
経済も好調そのものだったし男にとってはいい時代だったとつくづく思う。
今なら・・・



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