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            日常の風景   NO.0313
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竹林と雪と読書

姉川温泉の休憩室はかなり広い。
テレビ付きのリクライニングチェアーが40台、3列に並んでいる。
後ろにある木製の棚には、濃い茶色の毛布がきちんと畳まれて置いてある。

いい湯加減の温泉から上がると、
本を携えてこの休憩室に行くのがいつものコースである。
一番明るい場所を目で探す。

休憩室の全面は大型のはめ込み透明ガラスになっているので、
ふんだんに自然光が入ってくるのだが、
本を読むには逆光になる。
だから前面の一列目でないと活字が追いにくいのである。

幸いわたしの気に入った場所のチェアーがひとつ空いていた。
手入れの行き届いている磨きこまれたガラスの向こうは、
みごとな竹林である。
真っ直ぐで太い竹の背丈は10メートルは優に越えている。

群生する竹林に粉雪が静かに降り続いている。
風がないので雪は真っ直ぐに流れるように落ちてくる。

下の地面に降り積もった白い雪。
窓の上に垂れている太いつらら。ときおり見られる湯けむり。
趣のある冬景色がガラスの向こうに展開している。

わたしはリクライニングチェアーを適度な角度に調整して、
持参した本を広げた。
本を広げると夾雑物のように邪魔していたテレビが目の前から消えた。

わたしの正面には本があり本の両側には理想的な冬景色がある。
だが常に運動している粉雪が目の隅に入ってきて本に集中できなかった。
仕方なく本を置くと突然目の前に邪魔なテレビがにゅっと現れる。

本なら自然と完全に調和するのに、
テレビはわたしにとってまったくの異物になってしまう。
でもこんな状況にもすぐに慣れた。

小説の世界に入り込んで夢中で活字を追っていると、
突然紙面がぱっと明るくなった。
かなりの時間が経過していて強烈な西日が後ろから差し込んできたのだ。

いつの間にか雪はすっかり上がっていた。



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sceneryの風景

わたしが夢中でそのとき読んでいた本は、
辻村深月の「オーダーメイド殺人クラブ」
題名は推理小説のようだが全然違う。

中学2年生の女子生徒がクラスメイトの男子に
「わたしを殺して」と依頼して、
そのふたりが協力して殺人計画を進める物語である。

状況は異常で現実にはあり得ない物語だが、
作家の感性、想像力、表現力、記憶力などはほんとうにすごいと思う。
中学2年生の大人でもない、子供でもない危うさ、妖しさなどが
凄味が感じられるほど巧みに表現されている。

「リアジュー」なんていう中学生の流行語も覚えた。
リアルな実生活、友人とか恋人とかが充実しているという意味である。
わたしたちの中学時代はすべてがリアルだったが、
今の彼らはリアルとバーチャルのふたつの世界で生きている。

これは全くの偶然だが、
テレビでちらっと紹介された漫画「鈴木先生」シリーズも最近読んだ。
これも中学生の先生の物語である。

「オーダーメイド殺人クラブ」「鈴木先生」などで取り上げられている、
中学生同士のセックスとか、
「鈴木先生」には中学生と小学生のセックスまで取り上げられていて、
まわりの大人はどう対応していいのかがわからない。

読んでいるとこれは小説とか漫画だけの特殊な世界ではなく
リアルに進行、蔓延しつつある現代の社会現象なのだと実感できる。

テレビでも若者の驚くような事件はしょっちゅう取り上げられはいるが、
あくまでも異常な一過性の事件に過ぎない。すぐに忘れられてしまう。

今の時代に起きている、起きつつある中学生や小学生の生態、考え方のようなものは
小説か主張のある良質な漫画を読む以外に
大人は理解の手がかりが持てないのではないだろうか?



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