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            日常の風景   NO.0303
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トンボと走る

彦根城を見ながら、お堀端の小道を自転車で走っていると、
わたしの右前方を大型のトンボがスイスイと並走してくる。

トンボに視線を向けると、見事なオニヤンマである。
黒い流線型のボディに黄色い縞模様。
トラやヒョウを連想させるあでやかで剽悍なデザイン。

自転車のハンドルから手を離せば
すぐにでも触れられそうな距離をしばらく飛んでくれたので、
金緑に輝いている頭部や、尻尾の曲がり具合までが確認できた。

ずいぶん久しぶりにオニヤンマの雄姿を見た気がする。

わたしたちの子供のころはトンボも蝶もいっぱい飛んでいた。
小型のトンボは無数に群生していたし、オニヤンマも珍しくはなかった。
姿はめずらしくはなかったが捕獲するのは難しかった。

オニヤンマを捕獲した子供は英雄だった。
わたしも何度も追いかけたが、一度も成功したことはなかった。

自転車に乗りながら、そんなノスタルジーを楽しんでいたとき、
ハンドルを持つ右手が急にかゆくなった。
昨夜の蚊に刺された右手の甲である。

最近は網戸だけの備えで滅多に蚊が入って来ることはないので、
電気仕掛けの蚊取り装置もセットしていなかった。
だから夜中に蚊の羽音に何度も起こされ、
朝起きると数か所が腫れていた。

気分良く蝶やトンボの思い出に浸っていたのに、
そのかゆみがもうひとつのことを思い出させた。
ハエや蚊のことである。

子供時代は蝶やトンボも多かったが、
ハエや蚊はそれ以上に多かった気がする。

蚊帳は絶対の必需品であったし、
八百屋さんや魚屋さんなど、生ものを扱う店には、
ねばねばのとりもち式ハエ取り紙がつるしてあり、
もうハエが止まる場所がないぐらいに真っ黒に絡み取られていた。

正直に自分の気持ちを書くと、
蝶やトンボはなつかしいが、ハエや蚊はもう沢山である。

人間に都合のいい昆虫だけをよみがえらせたいという欲望は、
人間の傲慢だと思う。
万一、人工的にそんなことができたとしても、
それは自然をよみがえらすことにはならない。

人工繁殖とかDNAの操作などを行使して、
一時的には成功したように見えても
トータルとして長い目で見て
そんなことも新たな環境の破壊につながる可能性がある。

多分この地球上でいちばんの問題は人間なのだ。
恐竜時代が1億年続いたように、現在の生物の多様性は、
自然の宇宙環境に合わせて何億年も続いて行くに違いない。
人間さえいなければ・・・



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sceneryの風景

わたしたち銀河系の恒星は約2000億。
そんな巨大な銀河系が宇宙にはまた1000億以上存在して入いる。
きっと宇宙は生命体で満ち溢れているのだろう。

でも、生命体のいない惑星と
たとえば海があってその下で様々な魚たちだけが元気に泳ぎ回っている惑星。
その意味の違いがよくわからない。

生命体は少なくとも主観だけではなく
客観的に物事を考えられる知性のレベルが必要なのではないか。
そのレベルを獲得するために食物連鎖の頂点に人間が治まっているのは
ごく自然なことかもしれない。

地球を破壊もするが、一方宇宙の成りたちや物質や神の意味を考え抜く人間。
言語や科学や哲学や数学が存在してこそ、
宇宙に取って意味のある生命だという気もまたするのである。



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