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日常の風景 NO.0314
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横道世之介
読む本が無くなると本屋ではなく図書館に行く。
これはずっと昔からの習慣で、苦労して作品を生み出している作家や、
出版関係の人たちにはちょっと引け目は感じている。
図書館のフロントデスクの前には、
2〜3台の本を運ぶ本立て付きのワゴン車が止められている。
市民が返却に来た本を一時この場所にプールしておいて、
ある程度たまれば係員が本を所定の元の場所に置くためのワゴンである。
彦根図書館はどこにでもあるような地方の図書館に過ぎないが、
蔵書数は60万冊を超え、開架数だけでも15万冊はぐらいはある。
贅沢なことだが実際のところ本が多すぎて読みたい本が決まらない。
その点ワゴン車の本は、たった今市民の誰かが読んで返却した本である。
濃縮された質の高いとても選びやすいライブラリーになっている。
図書館に来ればわたしはまずこのワゴン車からチェックする。
並んでいる本の背表紙に人の顔が描かれている本があった。
珍しいので手に取ると明るいピンクの装丁で、
吉田修一 横道世之介 とある。
最初はピンクの色調と世之介という名前から、
井原西鶴の好色一代男を連想したが、
すぐに「横道世之介」という映画の予告編をテレビで見たのを思い出した。
「徹底的に平凡なひとりの若者を描こうとしました」という
監督のコメントまでよみがえってきた。
さっそく借りて読んでみることにした。
世之介は確かに頭もそれほどよくはなく、
東京で大学という名前さえつけばどこでもよかった
才能もない、特技もない、ただただ状況に流されてゆく普通の若者である。
そんなひょうひょうとした世之介の前を多くの人が、
一時期だけこの若者とかかわりをもって駆け抜けてゆく。
この作品がひかっているのは作者である吉田修一の構成力である。
淡々と世之介の大学での12ヶ月が順を追って描かれるのだが、
世之介とかかわりをもった友人たちの20年後30年後の世界も
ときおり挿入されるのである。そして世之介の運命も。
この年になれば、わたしにも多くの人がわたしのそばを通り抜けて行った。
「あいつ、あの人、あれからどんな人生を送ったのかな」
知りたいけれど小説とは違いお互いに一度すれ違えば永遠に遠ざかるだけである。
世之介の雰囲気を映像で表現するのは大変だろう。
基本的には小説と映画はまったく別の作品だと思っている。
多分映画の方は見ないかもしれない。
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sceneryの風景
最近わたしたちのBBS http://8236.teacup.com/scenery2/bbs
で映画のことが話題になりました。
小津安二郎の名作「東京物語」が
山田洋次監督によりリメイクされたのです。
小津安二郎の「東京物語」はわたしもトータルでは
2、3度見ていますが、
わたしには時代のテンポに合っていない、
歴史的な過去の作品に思えます。
どのようにリメイクされたのか「東京物語」の東京物語もいつか見るつもりです。
時代が変わったからといって、
家族形態が変化したからといって、
社会が当時とはまったく変わったからといって
普遍的な親子関係が変わるわけではありません。
最近、新聞の身の上相談で、なるほどという回答に出会いました。
子供が独立して遠く離れ、
さみしさと虚しさを感じている60代前後の主婦からの相談です。
回答を要約すると
これまであなたは子供たちに「何かをする」ことを自分の存在証明にしてきたのでしょう。
次のステップは「自分がいる」ことに意味があるということに気づいてください。
遠くにいても子供たちが地球のどこかにいるというだけで
心が満たされないでしょうか?
もし、地上にどこにもいなければ心の中にぽっかり穴があきます。
その逆もまた同じことです。
大切な人が存在する。この世に生きているということだけで、
ただそれだけでかけがいのないことなのです。
こんな回答に出会うとなんだか年取った親はほっとします。
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