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            日常の風景   NO.0322
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有馬温泉へ

老人力がついてきたなと感じることがある。
自分の行く先やその他のことを人に尋ねるのにためらいがなくなった。
相手も選ばなくなった。身近にいる人にテキトーに尋ねられる。

若い頃なら見得もあり、時間がかかってもできるだけ自分で調べようとした。
尋ねるにしても、若い女性などは完全に除外して、
できるだけ中年の親切そうな人が現れるのを待った。

電車で有馬温泉に行くのは初めての経験である。
JRの三宮駅に着いてからがちょっとややこしい。
阪急電鉄、神戸電鉄、ポートライナーなどの電車が混在していて、
有馬温泉駅の切符を買うのでさえ券売機相手にもたついてしまった。

改札口は阪急電車のものしかない。
案内標識には有馬温泉の「あ」の字も出てこない。
そこで手近にあるキオスクのおばちゃんに尋ねた。
「有馬温泉に行きたいのですけど、改札はここでいいですか?」

改札口をくぐってからプラットホームに入ってきた電車を見て
驚いた。どう見ても古めかしい普通の車両にしか見えないのに、
「特急」と赤い字で大きく表示されている。

これまた近くにいた熟年女性に
「これって、とっ、とっきゅう料金が必要なんですか?」
時間がないのであわてて思わずどもってしまう。
若い時なら絶対に口にできなかったセリフである。
老人力がついてきた証拠。特急料金は不要であった。

青春18切符が使用できるのは9月の10日まで。
確か今年は後2回分残っていたはずだが、どうするのだろうと
気にはなりつつもほとんど忘れていた。

青春18切符が発売される時期になると、
何の計画もないのに、とりあえず購入するというのが
我が家の旅のスタイルであり、行く先は家内がすべて決める。

ある時は家内がひとりで遠くの温泉に一泊ででかけることもあるし、
声がかかれば近場の観光地をふたりで回ることもある。

わたしは日常の生活で適当に遊び、くつろぎ、
楽しむ手段の選択肢には事欠かないので、
青春18切符が有効な期間ぐらい家内が自由に振舞ってくれるとむしろ嬉しい。

だが、今年の酷暑。さすがの家内もどこにも出かける気がしなかったようで、
「明日、有馬温泉に行こう」と声がかかったのが
9月9日の夕方。有効期限の最終日だった。

日帰りの有馬温泉と聞いて、わたしの頭には
有馬の金湯に浸かり生ビール。帰りには神戸のハーバーランドに寄って、
港の夜景を眺めながら生ビールと、次々とおいしいイメージが湧いてきて、
一も二もなく賛成をした。

新開地から有馬温泉口まで神戸電鉄の電車は山道を縫うようにして走る。
乗客はまばらである。ひとつの車両に5〜6人しかいない。
残暑は厳しくて、左側の車両の窓から強い日差しが差し込んでくる。

当然わたしたちは影を求めて長いベンチ型の椅子の右側に座る。
ところが2、3分経過すると、日の差し込む位置が右側に変わり、
わたしたちは左側に移動する。

ちょうど昼前で太陽の位置は真上。
山道をくねくねと曲がりながら移動する車両の微妙な角度に敏感に反応して、
日差しの方向が何度も何度も反転する。

もうこうなれば意地である。
日差しが反転するそのつど影の方へ座席を移動する。
ちっぽけな意地を乗せて電車はゆるゆると有馬へ向かうのでした。



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sceneryの風景

長い間「日常の風景」を書いていると、
前回に行った有馬温泉、神戸ハーバーランドなどの記録が残っている。
有馬温泉は7年前。ハーバーランドは8年前。

温泉や風景などの印象はほとんど変化がなかった。
昔のエッセイです時間があれば読んでください。

「ねね橋に佇んで」
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/sample/06-1/nene.html

「グラスの底から」
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/sample/05-2/gurasu.html

それにしても飲んでばかりですね。
自分でも反省はしていますが、止められません。



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発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
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