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            日常の風景   NO.0338
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チケットに並ぶ

朝6時に目覚ましをかけ、
起きると顔も洗わずにすぐに駆けつけて来たのに、
会場にはもう100人以上の行列ができていた。

八代亜紀の歌謡コンサートが今日開催されるので、
少しでもいい席を求めて、この列ができる。
列に並ぶメンバーは見事なぐらい年寄りばかりである。
子供もいない、若者もいない、もちろん猫や犬も見かけない。

わたしはどちらかと言えば演歌はあまり好きではないし、
行列に並ぶのはそれ以上に苦手な行為である。
でも有名な演歌歌手のショーのために朝早く起きて列を作るのが、
恒例の年中行事になってしまった。

理由は息子の職場にある。
毎年開催される演歌歌手のショーは地域のJAが主催している。
息子はそのJAで働いているのである。

もちろんチケットは無料ではない。
ある一定以上の商品(醤油とか清涼飲料水)などを購入したお客に対して、
歌謡ショーの招待券が配布される仕組みになっている。

職員には商品販売のノルマがあって、
息子にとっては一番販売し易い上得意、すなわち親の家に、
この時期どっと清涼飲料水の段ボール箱が積み上げられる。

案内文には9時から招待券と指定席の交換が始まると書いてあったが、
8時30分ごろになると行列に動きができた。
これも毎年のことであるが30分ほどは前倒しで交換が始まるのだ。

張られたロープに沿って、幾重にも蛇行した列が動く。
その動きは歯がゆいぐらいに遅い。

ただ列に並んでいるだけの時は家から持参した組み立て椅子にどっかりと座り、
本を読んでいれば、知らないうちに時間が過ぎて行くのだが、
列が動きだすと全員が立ち上がるので、もっとも退屈で苦痛な時間帯になる。

今夜のショーの会場にもなる、ひこね市文化プラザのグランドホール。
チケットの交換も同じ場所で行われた。
入り口近くには巨大な花壇があり、けやきの木やつつじなどが植えられていた。

花壇はあまり手入れはされていない。隙間なく雑草が我が物顔にのさばっている。
列は少し動いてはすぐに止まる。
最前列の花壇近くまで進むとコンクリート製の座りやすそうな花壇の淵があり、
ひとりの老女がその淵に腰をかけた。

つばの広い真白な帽子をかむり、しわの多い陽に焼けた真っ黒な顔が印象的だった。
その老女、ごく自然な振舞いで目の前の雑草をむしりだしたのである。

さして力が入っているようには見えない。
ひ弱な細腕なのに見る見る草は引き抜かれ本来の黒い土が顔を見せた。
長年の修練というか磨かれた技が感じられる鮮やかさである。

そしてまた列は動き始める。
老女は抜き取った草をひと塊りにまとめて、その場を去った。
再び列の動きが止まったとき、別の老女が同じ場所で又草むしりの続きを始めた。

わたしが見ているだけで、3人がその行為を自然に引き継いだのである。
全体の雑草から見ればほんの一部分に過ぎないのだが、
表れた黒い土と片側にきちんと整理されて置かれた雑草のたたずまいが爽やかで、
この場面に出会えただけでも早朝から並んだ甲斐があったと思った。



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sceneryの風景

ブラジルで開かれたワールドカップ。
日本チームは残念な結果に終わったが、負け試合にも関わらず、
日本の一部のサポーターがきちんとゴミ拾いをしてから会場を去る映像が、
ユーチューブで世界に紹介され、賞賛された。

このニュース本当に嬉しかった。
もちろん日本人すべてがこんなに品性の高い人ばかりではない。
むしろ少数派であろう。

偶然にたまたま日本の文化のいいところが発信された。
日本人というのは自発的に集団で善意のリレーができる
世界的に見れば極めてマレな民族なのかもしれない。

今回出会った偶然の出来事も、
働き者の素朴な農家の主婦が長年培ってきた日本文化の一部なのだろうと思う。
カメラを持っていなかったのでこの映像をユーチューブで紹介することはできないが、
わたしひとりが観客でその行為にいっぱい拍手を送ります。



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発行者 scenery
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