*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0334
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

はしごで読書

去年完成した大阪駅近くの新名所グランフロント。
この巨大な双子のビル、グランフロントを奥へ奥へと歩いて行くと、
最後にたどりつくのが人工的な日本庭園である。

周りは近代的なビル群。だがその場所だけは緑が豊富で、
小川があり、小さな滝があり、かわいい花が咲き乱れるオアシスである。
確かに人工的だが、音だけは本物。
小鳥のさえずり、そよ風、かすかな葉音、機嫌のよい歓声。

ベンチも適当に配置されているので、
愛用の木陰のベンチに座って読書をするのが最近の習慣。
鞄から取り出した本は村上春樹の「女のいない男たち」
4月に発売されたばかりの新刊であるが、発売前から図書館で予約をしておいた。

人気のある図書なのでできるだけ早く返却する義務がある。
この場所で今日中に読み切ってしまうつもりでいた。
6つの短編集の一編がもうすぐ読み終わるというときになって、
穏やかなビル風が急に強い突風に変わり本に集中できなくなった。

仕方なくベンチを離れ、ビルの中にあるイベント広場に場所を移して
短編のひとつを読み終えた。
だが巨大な吹き抜けになっている喧騒としたこの場所で残りを読む気はしなかった。

わたしは迷わず大阪駅前のヒルトンホテルに向う。
もちろん泊まるわけではない。ヒルトンホテルのロビーも
わたしの読書ポイントのひとつなのである。

ちょうど宿泊客がチェックインする時間でホテルのロビーは混雑していた。
外国人の団体客も多い。
ふかふかのソファーに沈み込むようにして、ここでも短編をひとつ読了した。
本に集中するとロビーのざわめきはまったく気にならない。

次に向ったところは地下街にある行きつけの喫茶店。
コーヒーが230円ときわめて安いにもかかわらず雰囲気がいい。
いつもイージーリスニングのクラッシック音楽が小さく流れている。
モーツアルトの曲が多いように思う。

もう夕食の時間に近いのでコーヒーの代わりに
ミックスサンドと生ビールを注文して、
ビールを飲みながらここでも一編を読み終えた。

偶然の突風で読書の場所をはしごするはめになったのだが、
すてきな短編集を読むには、一編ずつの小説の印象はもちろん、
読んだ場所の雰囲気も記憶に沈むこのスタイルも悪くないと思った。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

作家に対する最大のリスペクトはその作品を購入することだということは
十分に知っている。
だがわたしには購入した本は読まないという致命的な悪い癖がある。

いつでも読めると思うとツン読になってしまうのである。
読まれるのを待っている本が今でも30冊以上は積まれたままになっていると思う。
この間亡くなった渡辺淳一の「失楽園」も(上)(下)2冊持っているが、
(上)の半分ぐらいで読みかけのままずっと放置してある。

面白くなかったわけではない。かなり面白かったのである。
それでも図書館で借りた本を読むのが優先順位が当然高く、
いつの間にかぐずぐずとそのままになってしまうのである。。

村上春樹の新刊「女のいない男たち」は6編の短編集である。
まえがき
トライブ・マイ・カー               
イエスタディ                   
独立器官                     
シェエラザード                  
木野                       
女のいない男たち

どれも面白かったが、わたしの好みであえて順位をつけるなら、
1、木野 2、ドライブ・マイ・カー 3、シェエラザード

村上春樹の文学がノーベル賞の候補にもなり、これだけ世界中の人に愛されているのは、
彼のずば抜けた英語の能力と切り離して語ることはできないと思う。
日本語という特殊な言語を使いながら、普遍性のある文体を発明したとでもいえばいいのだろうか。

たとえば、彼は、
陽気な酒飲みと陰気な酒飲みがいるとはいわない。
彼の文体はこうである。

世の中には大きく分けて二種類の酒飲みがいる。
ひとつは自分に何かをつけ加えるために酒を飲まなくてはならない人々であり、
もうひとつは自分から何かを取り去るために酒を飲まなくてはならない人々だ。

従来の日本語ではない。翻訳ともいえない。まさに村上が発明した文体だと思う。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/
『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------