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            日常の風景   NO.0332
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カード事件

車のエンジンをかけるたびに、
「ETCカードが挿入されています」
と確認してくる人工的な声が煩雑に感じられるようになった。

最近は高速道路を車で旅する機会もほとんどなくなり、
ETCカードは無くても別に困らないので、
とりあえず音声を黙らせるために、カードを抜いておこうと考えた。

ところがカードを抜いても、今度は、
「ETCカードが挿入されていません」
というメッセージがそれに取って代わっただけである。

何日かそのままにしておいたが、
否定形のメッセージの方がより気に障るのでカードを元に戻したのである。
元に戻したにもかかわらず、今度は、
「カードを読めません、エラー03」とより深刻な内容に変化した。

何度やり直しても同じエラーメッセージ。
長い間差しっぱなしにして放置しておいたので、
カードを抜いたはずみでICチップの記憶部分が壊れたに違いない。

今現在はETCカードが無くても何も困らないが、
いざという時に全く使えないのも不便である。
仕方なくクレジットカードの会社に電話して状況を説明した。

「カードのICチップにキズが付いたのだと思います」
わたしが自信をもって断言するものだから、担当者も
「わかりました。再発行しますから2週間ほどお待ちください」
と答えてくれたのである。

そして2週間後書き留めであたらしいカードが届いた。
ところが新しいカードでも「カードを読めません、エラー03」
これはETC車載器の本体そのものが壊れてしまったに違いない。
やっかいなことになった。
あの時カードを抜き差しするのではなかったと後悔することしきり。

自動車の修理工場を営んでいる友人の工場に行くついでがあったので、
工場で修理を担当している若い技術者にトラブルを説明すると、
「カードをどの向きで差されましたか?」
との簡単な質問をされた。

「どの向きって、こうよ」
わたしは金色に光っているICチップの先に表示されている
差しこみの方向を示す黒いの矢印を指差しながら、
すこしムカッとする気分を抑えてジェスチャーでカードを空中に突き出した。

「いえ、それは違うと思います」
彼はわたしの手からカードを受取りカードを裏向けにしてから本体に差し込んだ。
大騒ぎの源は結局ただそれだけのことだったのである。
壊れていたのはカードでもETC車載器でもなく、わたしの脳ミソだった。

この事件はかなりのショックだった。老人特有の思い込みというやつである。
柔軟性のある思考回路が完全に喪失してしまっている。
この出来事を「カード事件」として強く記憶に留めて置くべきだと
しょんぼりしながら猛反省。



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sceneryの風景

ETC車載器は車のコンソールのどこか目につきやすい部分に設置されるのが
普通なのかもしれない。
それをわたしは滅多に使うものではないからとわざと本体をさかさまにして
運転席の下の方に目立たないように取り付けてもらったのである。

本体がひっくり返って付いているのだから、カードも裏向きに差さないと読み込めない。
差しっぱなしにしておいた時はなんの問題もなかったが、
一度抜いてしまったので、わたしの思い込みが大トラブルになってしまった。

説明書もどこかにあるのだろうが整理が悪いのですぐには見当たらなかった。
工場から家に帰って本体の音量部分をいじくっているうちに、
偶然「音声案内をしない」という機能にも気がついた。

若い頃ならわからなくても試行錯誤して機能をすぐに発見していただろうと思う。
だが場所が悪いとか字が読みづらいとか、ちょっとした障害があると、
もう保守的になってあたらしい試みは何もしない。
老人になるということはある面、やっかいなことですねえ。



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