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            日常の風景   NO.0333
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カナダからの客

月曜日はわたしのボランティア・ディである。
近所にある普通の家庭の主婦が月曜日にだけ老人のサロンとして
自宅を開放してくれている。

ボランティア活動のリーダでもあるその家の主婦に
英語の通訳を頼まれた。
2週間ぐらい後のことであるが親戚の若い女性がカナダから訪ねてくるという。
女性の母親とは面識があるが本人とはまったくの初対面だそうだ。

安く世界を旅行するために必要に迫られて始めたわたしの英語だったが、
ボケ防止も兼ねて定年後も習慣的に訓練だけは毎日続けていた。

年に数回は大阪駅で道に迷っている外国人を助けたり、
偶然、電車の同じ席に乗り合わせた外国人と話したりしたことはあるが、
外国へ旅行する以外に実用的に英語を使う機会はまずない。

よく考えてみれば、すばらしい機会が偶然舞い込んできたのである。
徹底的に関わってみようとすぐに決めた。
まずメールのアドレスを教えてもらい、こちらからコンタクトを取った。

初対面だから彼女の顔写真も送ってもらった。
日系の4世ぐらいになるのだろうか、30代ぐらいに見える。
日本語は全く話せないが、完全に日本人の顔立ち。なかなかの美人である。
東京から来るので新幹線の時間から米原駅での待ち合わせの場所まで、
細かな打ち合わせをメールで済ませておいた。

一泊二日の予定で彦根の親戚の家に泊まりにくる彼女。
ある意味ではすごく勇気のいる行動だと思う。
何しろ言葉もわからない異国で見ず知らずの親戚の家に泊まろうというのである。

わたしたちの子供の頃は親戚関係というのは非常に濃密だった。
お風呂をもらいにいったり、祭りのときには互いに訪ね合ったり、
法事や結婚式、お葬式など、いかにも親戚というつき合いだった。

現代の日本社会が遠い昔に喪失してしまったよき親戚関係を
異国のカナダではずっと持ち続けているのに違いない。
文化や慣習は遠く離れた地域ほど色濃くその痕跡が残る。

中に立つわたしの責任はかなり重大だと思った。
最初にしたことは両家のファミリーツリーを覚えることだった。
誰と誰がどのような関係であるかということを正確に把握したいと思った。

幸いわたしはカナダを3回旅行している。
彼女が住むトロントにも2回行った。
共通の話題には困らないはずである。
でも念のためカナダの地図を見ながら地名をもう一度確認しておいた。

NHKの朝ドラの「花子とアン」のオープニングに使われている
プリンスエドワード島も訪れたことがあるので、ドラマの背景
「赤毛のアン」の原作者モンゴメリーのこと等も調べておいた。

これだけ準備を整えて失敗する訳はないと自信を持って当日を向えた。
初対面なのに家族との会話もはずんだし両家の親戚の情報も交換できた。
彼女の祖先が育った場所や
トロントの滋賀県人会がかなり昔に記念植樹したメープルリーフなどを訪ねた。
もちろん彦根城、玄宮園、そして近江八幡などにも案内した。

あっという間に時間が過ぎてしまった感じがする。
それだけ時間が充実していたということだろう。
ある面では裏方で脇役に過ぎないわたしの役割にスポットライトが当たった、
人生のハイライトのひとつだったのかも知れない。

このあと京都を旅行するという彼女を見送りに彦根駅に行ったとき、
彼女は改札口の前で大きく両手を広げてわたしに近づいてきた。
日本人の顔をしているが、こういうところはやはり外国人である。

まわりにはかなりの人がいたが、こんなところで妙に照れてもいけないと思い。
わたしも彼女を両腕で胸にしっかりと抱きしめた。



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sceneryの風景

前回の通訳としてのの役目はおよそ15年も昔の事である。
その時のことを文章にしている。なつかしいので探してみた。

ボランティアから見た世界湖沼会議
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/report/kosyo.html

自分でいうのもなんですが、文章がまだ瑞々しいですね。
意欲もエネルギーも感じます。
英語はあのときよりも少しは上達していると思いますが、
文章力は逆にしぼんできましたね。仕方がないことですが・・・

スカイプを利用してインストラクターと直接話すメニューも利用していますが、
わたしの訓練のメインは若い頃から愛用してきた単語の本が3冊。
普通の単語の本のように個々の単語ではなく、
短い文章で2つか3つがひとかたまりになっている単語帳。
たとえば「海洋生物」「海の表面」「潮の流れ」「温暖な気候」
といったような調子の本です。

3冊合わせると単語の数にして約5千ぐらいにはなると思います。
これを一週間かけて繰り返しています。

一度覚えてしまえば、お坊さんが読み上げるお経のようなもので、
負担にはなりませんが、物理的な時間が一冊当たり最低30分〜40分はかかります。
3日間で日本語から英語、残りの3日間は英語から日本語。
退職後のルーチンのひとつで、もう5年間は続いています。

もしわたしに何かの才能があるとすれば、
同じことを繰り返していても飽きないという才能かもしれません。



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発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

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日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

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