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            日常の風景   NO.0323
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特別警報の朝

早朝に台風18号が接近してくるのは天気予報でわかっていた。
台風のコースは最悪だが、規模は中心の気圧が970ヘクトパスカル。
小型のごくありふれた台風だと思った。

いつもなら二階のシャッター扉も全部閉めるのだが、
今回は一階だけにした。
風が吹くと金属製のシャッターが窓枠にぶつかり音がうるさくて眠れないからだ。

しかし小型といえども台風である。
朝方になると風のうなりと雨の音が強くなり、寝苦しい。
何度も何度も寝返りを打つ。

そんなときである。風と雨の音にまぎれてはいるが、
チンチン、チンチンという聞きなれない音が耳に入ってきた。
時計を見ると5時前。
火事かと思って一瞬肝を冷やした。
この風の中で火事が起これば、大火になるのは間違いがない。

やがてチンチン、チンチンという音が近づいて来て、
マイクから何かを言っている。
「避難して下さい」という声がかすかに聞こえた。

「ええっ」と半信半疑でテレビを点けると、
彦根市に特別大雨警報が出ている。
でも外の様子は今までに何度も経験している程度の、
普通の小型の台風である。雨もそれほどの量でもない。

「避難て、大げさな」と勝手に判断して、
そのまま再び眠ろうとしたが、さすがに眠ることはできない。
チンチン、チンチンという警告音を鳴らしながら
小型の消防車が何度も回ってくるし、仕方なくテレビを見ていた。

朝になって遠くの親戚から「大丈夫ですか?」というお見舞いの電話をいただいた。
先方の心配そうな声と、何ら変わったことがないという当方の実感との
ギャップがあまりにも大きすぎて戸惑ってしまう。

全国にいるわたしの文学仲間も、ニュースを見て心配していてくれるだろうと
わたしたちのBBSを通じて、
「心配しないでください、ただの小型の台風ですから」
と書き、より安心させようと思って余分なひとことを付け加えてしまった。

「特別警報という新しいルールができたので、
行政はマニュアルに従って行動しているのだろうが、
こんなことが繰り返されると、本当に緊急避難が必要な時、
誰も信じなくなるかもしれない」

翌日にいつものように将棋を指しながら昨日の話を聞いてみると、
あの時、彦根の一級河川である芹川の水量はただごとではなかったらしい。
芹川の近辺に住んでいるわたしの友人も自主的に避難をしたと言っていた。

空中にすぐに消えてなくなる雑談とは違って、
いくらマイナーなBBSであっても文字で書けばいつまでも残る。
何事であれよく調べもしないで思い付きで批判したのは大失敗。猛反省。



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sceneryの風景

翌日BBSですぐに勇み足だったことを詫び、取り消しのコメントを書いた。
よく考えてみれば、あのような緊急事態に細かい対応などは
行政に望むべくもないし、不可能なことである。

大切なことは日頃からひとりひとりが低地や危険地域をしっかりと把握しておく必要がある。
「ただちに自分の命を守る行動を取ってください」という行政の警告が
あったとしても、わたしの家族があわてて避難する必要はないというのが、
冷静に考えたときのわたしの判断である。

我が家は芹川からはかなり遠く離れているし、
万一決壊しても命にかかわるということはまずないと思う。
でも堤防近くの低地の家なら念のため避難する必要もでてくるだろう。

今回、市の対応は適切だったと思う。
小型の消防車が市内をくまなくまわり、常にマイクで注意を促していた。
万一川が決壊すればすぐに市民に伝えられる体制ができていたのだ。

彦根市から自治会長に依頼があったのだと思う。
自治会の防犯、防災の委員が、個別に家を訪ね回って、
それぞれの判断で非難をするようにと口頭で伝えていた。
行政はかなりうまく機能していたと評価できると思う。

それにしても10年間に一度しか起こらないような特別大雨警報が、
災害とはほとんど縁のなかった彦根市に発せられたということは、
これから毎年のように繰り返されるのかもしれない。
異常気象が異常ではなく、これが普通になることが怖いですね。



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