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            日常の風景   NO.0336
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湯原温泉

旅館の部屋のテラス越しに大きな川が流れていて、
水面には激しい雨の波紋が絶えず浮かんでは消えていた。
バス料金が無料というキャッチコピーに魅かれて
梅雨真っただ中に計画した旅行だからこの天気も致し方がない。

部屋に居るのは工業高校時代のクラスメート。いつもの旅の仲間4人組。
青春時代であれば女性の話だけで盛り上がり、
またその話しか話題にならなかったのに、
最近は自慢するかのように自分の体のあそこが悪いここが悪い。

おまけに物忘れがひどくなり、最近こんな場面でズッコケたと、
自虐的に自分の失敗談を競争のように披歴し、
それらを肴に笑いが絶えることなく酒がすすむ。

浴衣に着替えて温泉に入りひと息ついたら雨が止んでいる。
すぐにわたしは外に出で温泉街を歩こうと提案した。

岡山県にある湯原温泉。
旭川沿いにある砂湯と呼ばれる共同露天風呂が有名で、
全国露天風呂番付においては西の横綱とされているらしい。

わたしはどうしてもこの露天風呂が見てみたかった。
折角高速バスを利用して遠く湯原温泉にまで出向いてきたのである。
旅館の部屋でじっと酒を飲んでいるだけでは、
どこの温泉も全く同じ風景でとりたてて書くことが何も無いのである。

渋るみんなを追い立てるようにして、
玄関にある草履を履き、傘を借り、川沿いの道を砂湯に向って歩く。
わたしたちの旅館は温泉街の外れにあった。
一方砂湯は逆方向の外れに当たる。

小さな温泉街なので地図でみれば大したことがなさそうな距離だったが、
歩き出すと結構な距離になった。

運の悪いことに湯原大橋を渡った時点で小雨まで降ってきた。
「もうこれ以上行かん」「草履の鼻緒が痛い」などと
ぶつぶつと不平をいうみんなを何とかなだめすかせ、
少しずつ砂湯にまで歩を進める。

ラッキーなことに途中に足湯があったり、河川敷に色鮮やかな花が植えられていたり、
往時をしのばせるわびしい射的屋さんの看板があったり、
うらぶれた飲み屋の看板があったりで、何となく足を自然に前に前に進めることができた。

やっと砂湯に着いた頃には雨も止んでいた。
砂湯と呼ばれる由来は川底から砂を噴きながら温泉が湧いていることから
砂噴き湯そして砂湯となったらしい。

露天風呂の目の前には巨大な湯原ダムがそびえている。
川に沿って3つの湯船がありなかなかの風情。
3人の利用客が湯に浸かっていた。
混浴だが残念なことに全員が男性、湯加減を聞いたり利用客と気楽な雑談をする。

わたしたちも足湯代わりにと湯船に足を入れる。
自然の岩石で縁取られた湯船のまわりに座ってゆっくりとした時間を過ごしていると、
1歳ぐらいの女の子を連れた若いお母さんと、その友人らしい女性がふたり、
わたしたちと同じように足を温泉に入れた。

すかさず「一緒に入ろか」と仲間が声をかける。
年寄りはためらいなく気楽に冗談が言えるのがいい。
「ええ、この娘でよければ」
と、おむつでお尻のまわりがぷっくりと丸くなっている子供を指差した。
なかなか頭のいいお母さんである。全員がどっと笑う。

そんな雰囲気に酔って仲間のひとりの浴衣の裾がドボンと温泉に浸かり、
あわてて立ち上がった拍子にパンツまで濡れてしまい、
まるで粗相をしてしまったかのようにそのあたりがびしょびしょになったのも、
年寄りらしい笑えるエピソードとなって記憶に残った。



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sceneryの風景

砂湯はこんなところです。
http://www.net626.co.jp/new.htm
普段なら京都から湯原温泉までのバス料金が3300円必要なところを
無料にしますというキャンペーンに参加した。
お客が極端に少なくなる梅雨の時期。旅館もそれなりに必死なのだろう。

でもこの企画はかなりの成功を収めているように見えた。
京都それに新大阪からのお客でバスはほぼ満席に近いだけの人数が集まった。
客のほとんどはわたしたちと同じような年代の年寄りばかり。

あくる日は幸運なことに晴天。
鳥取県の倉吉市を散策するオプショナルツアーにも参加した。
有名な町であるのに今まで一度も訪れる機会がなかった場所である。

街中に水路が豊富で白壁の土蔵が映えるいい雰囲気の町でした。



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