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            日常の風景   NO.0351
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赤穂への旅

勢いをつけて窓のカーテンを左右に思い切り開くと、
まばゆいばかりの光とともに、播磨灘の眺望がぱっとひらけた。

誰でもそうだと思うのだが、旅の宿の部屋に着いて最初にすることは、
窓からの風景を確認することから始まると思う。
山の上にある「かんぽの宿赤穂」からの眺望は素晴らしいのひと言に尽きた。

宿のパンフレットで確認すると、眼前に見える島々は家島諸島と呼ばれている。
左から男鹿島(たんがじま)、家島、坊勢島(ぼうぜじま)、西島などが
真正面に見える。

天空の部屋からは碧い海だけではなく、
道路脇や山に転々と咲いている桜がちょうど満開で、
ピンクとブルーの絶妙な按配に心が奪われる。
この風景を目にできただけで赤穂に来た甲斐があったと思った。

旅のメンバーは総勢8名。
年に一度発行する文学雑誌を昔から共に創ってきた仲間達である。
作品は毎年目にしているが、出会うのは20年ぶりという仲間もいた。

友情というのは不思議なものだと思う。
時間の経過や出会った頻度などにはそれほど影響されることがない。
たとえてみれば魅きあう磁石のようなものだと思う。
磁石には2種類ある。電磁石と永久磁石。

現役時代ほとんど毎日親しく楽しく飲みに行く同僚が数名いた。
だが定年退職になり、組織という電磁石のスイッチが切られた途端、
魅きあう力も呆気なくゼロになってしまった。

小学校、中学校、高校時代の仲間との友情はたとえ長い間離れていたとしても
又近くで顔を合わせる機会さえあれば永久磁石のパワーがすぐに蘇る。
地位とか力関係とか損得勘定などとは無縁で、
共通の原風景とか価値観とか時代を持った確固とした核はスイッチでは切れない。

同じ職場の仲間でも、文学という核のおかげで、
定年後もこうして友情は継続してゆく。
定年退職してからもう10年近くにもなり、年寄りの仲間入りをした後でも、
この仲間うちにあっては、今だにわたしが若手である。

湯に浸かり、たらふく飲んで、食べて、喋った、
楽しい夕食の後は、文学を趣味にする集団らしく吟行会が開催された。
わたしは吟行会はもちろん、俳句を作ることも中学校の授業以来かもしれない。

その夜は俳句の専門家がふたりもいたし、
さすがに文学に長年慣れ親しんできた仲間たちです。
専門家に要領をすこし解説してもらうとそれなりの形になった吟行会でした。

吟行会の句を一部紹介すると

「春風に 歩き疲れて 友と宿」
「春の牡蠣 食しつ偲ぶ 匠街」
「旧友と 巡る播磨路 花盛り」
「潮騒に 赤穂の桜 打ちふるえ」
「親子連れ かんぽの宿は 春休み」



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sceneryの風景

JR赤穂線に乗って播州赤穂駅のひとつ手前の坂越(さこし)という駅で降りた。
子供時代をこのあたりで過ごしたという大先輩の案内で、
坂越の街をぶらぶらと歩く。

通りにはうつくしい桜並木が満開なのに観光客はほとんどいない。
海岸通りにあるシーズン最後の牡蠣料理を食べるために渡った
大きな川の橋の上で、おびただしい数の白い鳥が上昇気流に乗って舞っていた。

わたしの句
「鳥群れの 乱舞の下の 花吹雪」
花吹雪には早かったのだが、天空で白い鳥の群れ、
地上で花吹雪があれば絵になると思った。
乱舞と花吹雪が重なっているという批評。
こんな短いフォームなのにイメージが重なってはいけない。納得できる。

坂越は歴史の風格をたたえたこじんまりとしたいい雰囲気の街である。
昔は優れた職人や匠とよばれる名人もいっぱいいたはずである。
「春の牡蠣 食しつ偲ぶ 匠街」
通り過ぎた坂越の街を思い出しながら牡蠣料理を食べた句だと思ったら、
作者曰く、赤穂の浅野内匠頭の匠のことも織り込んだとのこと。

しかし俳句の専門家でない限り、解説がないと
ここまで深くは読めない。
これが俳句という文芸のおもしろさであり、難しさでもある。

「潮騒に 赤穂の桜 打ちふるえ」
この句は最後の打ちふるえという表現にクレームがついた。
俳句の専門家ふたりとも同意見だったから、
多分俳句らしくない表現なのだろう。先生の添削は
「潮騒の 赤穂岬の 桜かな」 
この方が確かに俳句らしくこじんまりとまとまっているが、
読み手に伝わるインパクトとという点ではどうだろう。
とにかく俳句は推敲し出せば切りのない世界である。

子供時代大先輩が通っていたという小学校跡のそばに
由緒ある神社があった。大避神社という。
神社の山門横には立派な桜の花が満開で、
その下に続く階段の両側には赤い旗がずらりと立ててあり、
風にばたばたと揺れていた。

わたしの句
「満開の 古刹の赤旗 揺れ騒ぎ」
この句には季語がないという一言。
満開は春の季語だと思ったのだが、どうも違うらしい。

とにかくわたしには俳句の才能はない。
丁寧に情景を描写できる散文の方がやはりわたしの性分には合っている。



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