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            日常の風景   NO.0356
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白馬のジャンプ台

梅雨時のことであるから一日中晴れたという日は一日もなかった。
当然である。宿泊費がこんなにも安い理由は梅雨の時期だからこそだろう。
でもラッキーなことに一日中雨という日もなかった。

午前中はそこそこの天気で、午後から崩れるというパターンが多かった。
だが一週間の内で一日だけ朝から雨という日があった。
八方尾根のゴンドラリフトに乗って、山の上に上る予定を立てていたのだが、
雨では仕方がない。急きょ予定を変更することにした。

どこにも出かけずに朝からベッドに横になって、
持ってきた本を読むことにする。
毎日そうするつもりで5冊もの重い本を携えてきたのである。

いわばイメージ通りのスケジュール。
湯治客らしい一日にするつもりだった。
そうと決まればまずは温泉、朝風呂、露天風呂である。

露天風呂から山は全く見えなかったが、
八方尾根の山すそにあるスキーのジャンプ台だけはいつもより目立っていた。
山に半分以上雲がかかり、自然の緑は黒っぽく見えているのに、
2本のジャンプ台だけは目が覚めるような明るい人工的な緑。

今までに露天風呂で宿泊客から漏れ聞かされた話をつなぎ合わせてみると、
あのジャンプ台のことには誰よりも詳しくなった。

ラージヒルもノーマルヒルもリフトと階段で上まであがって下が見下ろせること。
長野オリンピックで活躍した選手の雄姿がビデオで流されていること。
オリンピック以来国際試合は一度も開かれていないこと。
その理由は長野以降ジャンプ場の国際基準が変更されたのに、
資金不足で改修に手が付けられないことなどなど。

雨に煙るジャンプ台を眺めているうちに、
雨でも一度あの場所に見学に出かけてみようと気持ちが高揚してきた。
昼前にはホテルからジャンプ台行きのバスが出るはずである。

早速フロントでバスの利用予約を済ませた。
やっぱりわたしたちには一日中ホテルの一部屋で
缶詰になって過ごすなんてことは無理である。

その日の運転手は白馬に来てまだ間がないと言っていた。
ジャンプ台の入場口にはすぐに到着したが、
「すみません、どこかこの近くの昼食が摂れる場所で降ろしてください」
とイレギュラーなオーダを頼むと、もうそれだけで動転しているのがわかった。

というのは観光スポットにもかかわらず
シーズンオフでほとんどの店が閉じられていたからである。

あちこち捜し回ってやっと一軒、そば屋の登り旗が道に林立しているのを見つけた。
営業中の旗も混じっている。いつの間にか雨は上がっていた。
「ここでいいです。ここにします」

運転手に気の毒という気分もあって、強引に車から降りた。
車から降りてから気が付いた。
登り旗だけで肝心の店自体が道沿いには影も形もないことを。

メインの道路から住宅地のような場所を案内標識に沿って進むと、
やっとお目当ての店が見つかった。
やれやれと店に入ろうとしたとき何となく後ろに人の気配を感じて振り返ると、
バスの運転手がついて来てくれていた。

わたしと目が合うと
「もしかして店が休みかもと思いまして」
彼は照れ臭そうに一礼してから車に戻って行った。

ラージヒルのスロープの迫力は想像を絶した噂通りのものだった。
だがわたしにはこの地に慣れない運転手の親切の方がより印象に残った。



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sceneryの風景

一週間も滞在するとホテルのスタッフとも顔見知りになり、
互いに挨拶をするだけではなく、たまに短い会話を交わしたりするようになる。

スタッフは地元の人は案外に少ない。
都会から白馬に遊びに来て、白馬村の人や雰囲気や環境に惚れ込み、
そのままここに居ついてしまったという人が多い。

山やスキーが大好きで、シーズンごとの近辺の美しいスライドを見せて、
いかにすばらしい土地であるかということを情熱的に語ってくれた、
食堂担当のたまちゃんもその一人。
神戸から移り住んでもう25年にもなると言っていた。

朝の散歩をガイドしてくれたスタッフは、東京から白馬に引っ越してきてまだ半年。
東京では洋服を売っていたと言っていた。
全くの畑違いにもかかわらず白馬の山には滅法詳しい。
心からこの土地が好きでたまらないということが表情と口ぶりにうかがえる。

そんなスタッフのやる気はホテルの隅々にまで行き届いている。
栂池の帰り道、急に雨が降ってきたからと予約もしていないのに
わざわざ白馬駅にまでバスで迎えに来てくれた運転手。
本文に書いた運転手とはまた別の人である。

ロビーの片隅に飾ってある「スタッフのお勧め」というコーナ。
写真付きで手書きのポップがアットホーム的で、
遊びに行くときの参考にさせてもらった。

トータルの印象として、とにかく気持ちのいいホテルでした。
お礼を込めて最後にホテルの宣伝。このホテルです。
http://www.hakuba-highland.net/



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