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            日常の風景   NO.0345
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悲しみに

朝のNHKの連続ドラマ「マッサン」の主題歌を
毎朝元気よく歌っている歌手の中島みゆき。
わたしは若い頃から彼女の歌が大好きでカラオケでもよく歌う。

そんな彼女に「悲しみに」という昔の歌がある。
あまりヒットはしなかったのでファン以外は知らない人が多いと思う。
紹介すると以下のような歌詞である。

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悲しみに 打ちひしがれて
今夜 悲しみに 身を震わせる
裏切りの足取りが
今夜示す おまえのドアを
知らずに泣いていればよかった

誰にさえ 嘆くあてなく
今夜 誰にさえ 噛みついている
名を呼べば 振り返る
友は知らぬ 笑顔を見せて
今夜は 夜に流されそうだ
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歌も抜群にうまいが、彼女の真骨頂は歌詞にあると思う。
日本では詩人の評価はあまり高くない。
詩人では飯が喰えないというのが定説である。

ところが西洋では詩人の評価は小説家よりも高い。
ヨーロッパに行ったとき、詩の朗読会のポスターを何度か見かけた。
もちろんチケットを購入して入場するのである。

日本の本物の詩人は歌謡曲の作詞家に凝縮されているような気がする。
「悲しみに」はたったこれだけの短い詩作であるのに、
短編小説以上のドラマが内包されている。

中島みゆきは自分の詩作について一切の解説をしない主義だから、
読者が作品を好きなように解釈できる。
わたしはこの詩から悲しみのヒロインA以外に
もう3人の登場人物BCDを想像する。

AとBとCは女性のグループ、DはヒロインAの夫である。
AとBは昔からの親友でとても親密な関係。
Cはグループのひとりだが
AとBの中には入って行けない、ある種の疎外感を持っている。

これで舞台の役者は揃った。
親友のBは、Aに隠れて長い間彼女の夫と不倫を続けてきた。
その事実を偶然に知ったCは
いかにも心配している振りをして巧妙にその事実をAに告げたのである。

その当日まで不倫がバレていることを友はまだ知らない。
昔からの愛称を呼べば普通に笑顔を見せて振り返るのである。

でも今夜である。
不倫の現場である友のアパートのドアを叩く決意を彼女は固めている。
誰も救われない。

彼女は今夜、夫も親友もその事実を告げた友さえも
すべていっぺんに失うことになるのである。
もう誰に嘆くことさえもできない袋小路の絶望を歌っている。

袋小路といえば彦根の歓楽街は袋町にある。
昔は遊郭のあった場所で花の生涯をはじめとするいろんな小説を読めば、
若き日の井伊直弼や長野主膳なども遊んでいた歴史的な街である。

だが、今は見る影もない。
錆びついた支柱に貼りついているネオンも消えている店が多い。
華やかだった一時期を知っているだけに哀愁漂う路地なのである。

そんな路地裏の奥の奥。
侘しいスナックの年取ったママと侘しく老いたひとりの客が
今夜も歌います、中島みゆき「悲しみに」



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sceneryの風景

「悲しみに」の歌詞だけをみれば救いようのない絶望的な歌であるが、
トータルとしてのみゆきファンは絶望だけを感じているわけではない。
たくましく、しなやかに、しぶとく生き抜く女性の歌も知っているからである。

たとえば「ほうせんか」

悲しいですね 人はこんなに
ひとりで残されても 生きてます
悲しいですね お酒に酔って
名前呼び違えては叱られて

「かなしみ笑い」

だから 笑い続けるだけよ 愛の傷が 癒えるまで
喜びも 悲しみも わすれ去るまで

恨んでいられるうちは いいわ
忘れられたら 生きてはゆけない
そんな 心の誓いも いつか
一人笑いに慣れてしまうもの

今年の紅白歌合戦。ひさしぶりに中島みゆきが出場します。
「麦の唄」を聴くのが楽しみです。

みなさん、今年一年どうもありがとうございました。
また来年もよろしくお願いいたします。



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