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            日常の風景   NO.0346
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マルチバース

何となくもやもやとしていた事柄が、一冊の本を読むことによって、
ああこういうことだったのだとすっきり腑に落ちるという経験が今までに何度かある。
わたしの本棚の片隅に眠っている表紙の黄ばんだ古い岩波新書、
「科学の方法」という本もそのような本である。

今回はその本の話ではなくて、その本を薦めてくれたある教授の話からスタートする。
大昔の話なので教授の名前も覚えていないが、顔は思い出せる。

教授が授業(数学ではない)の中で「数学も言語なのです」と言った
英語とか日本語とかフランス語とかと同じ言語なんですと断言した。
そして言語であることの簡単な証明を黒板に書き連ねたのである。

数学こそが世界共通の言語であると納得したときから、
大袈裟に言えば、わたしの人生観はすこし変わったような気がする。

わたしは数学が大の苦手で簡単な数式でも全く理解ができない。
でも数式の解説文なら理解することができる。
特に興味のある宇宙の分野なら解説文を丁寧に読むことが出来る。

数学という言語を使って物質とか時間とか空間とか運動とかが説明できるのである。
数式で説明された仮説が、実際の観測や実験で次々と証明されてゆく。

こうしたち密な作業が繰り返されることによって、
現代の宇宙物理学者は、わたしたちが住む宇宙の始まりについて、
かなりの核心部分に迫りつつある。

宇宙の誕生は137億9千800万年前。
現代の科学はこれほどの精度で宇宙の誕生、すなわちビッグバンという
とてつもない現象が発現した年を推測できるようになったのである。

「無」という「真空」の状態からいかにして物質にあふれる宇宙が誕生したのか。
選ばれた宇宙物理学者は神の数式を見つけようと難問と格闘している。
そしてかなり肉薄してもいるのである。

東京大学の佐藤勝彦教授が提唱した「インフレーション理論」が
ビックバンの成り立ちを説明するのにもっとも有力な数式であると
世界中の科学者に注目されている。

真空のゆらぎのほころびにより、素粒子よりも小さな点が
0.0000000000000000000000000000000001秒後に、
現在の銀河宇宙と同じぐらいの大きさにまで
瞬間的に拡大した現象を佐藤教授はインフレーションと名付けた。

このインフレーション直後の状態がビックバンそのものである。
理論は仮説に過ぎず観測による裏付けが必要なのであるが、
ビッグバン直後の光が宇宙背景放射として地球に届いていて、
その宇宙背景放射と原始重力波の痕跡を丹念に調べることにより証明されるらしい。

とにかくこのインフレーション理論のもっとも驚くべき点は、
宇宙が次々と誕生してゆくという結論が導かれることである。
ユニバース(単一宇宙)からマルチバース(多元宇宙)へ。

わたしの単純化した宇宙空間の理解は、
太陽のような恒星が1千億個集まっているのがひとつの銀河系で、
その銀河が宇宙には1千億個もある。

インフレーション理論が実際の観測で証明されると、
宇宙そのものがまた1千億以上あると考えてもいい訳である。
ここまで突き抜けて話が大きくなってくると、
ひょっとすれば本当かもしれない、本当であって欲しいと思えてくる。



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sceneryの風景

科学という言葉を何の疑問もなく日常用語として使っていますが、
「科学とは何のことですか?」と問われたときに
すらすらと答えられる人は少ないのではないでしょうか。

冒頭に紹介した「科学の方法」、名著です。
古い本ですが今読み返してみても内容は少しも古びていません。
著者は中谷宇吉郎という物理学の先生。

科学とは何かということを随筆のような解説で
わかりやすく書かれている。
科学の限界についても、矛盾についても納得できる説明である。

本の中からの一文を引用する
「科学の内容をよく知らない人の方が、
かえって科学の力を過大評価する傾向があるが、
それは科学の限界がよくわかっていないからである」

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